「監督から『カメラは使えるのか?』と聞かれたので、『スピルバーグ並みに撮れます!』って、答えた(笑)」
しかし、ウルリクさんは“スパイ”として専門的な訓練を受けたわけではない。国家の後ろ盾もなく、身を守ってくれる人は誰もいない。時には、命の危険を感じることもあった。
17年、武器取引について北朝鮮側と話し合うため、投資家役の「ミスター・ジェームズ」を連れて再び平壌を訪れたときだった。
朝、車に乗ると、北朝鮮の案内人にこう告げられた。
「あなたの力になれる人に会いに行く」
車は郊外へ向かい、廃虚となった工場のような建物に着くと、階段を下りるように指示された。地下は薄気味悪い場所だった。わざわざ、こんな人気のない場所に連れてこられたことに、“最悪の事態”も頭に浮かんだ。
「あのときは、(バレた! もう終わりだ)と思った。家族のことが思い浮かんだ」
ところが、連れて行かれた地下にある大きなドアが開くと、突然、豪華な部屋が現れた。
「カタログが手渡され、(うそだろう?)と思った。そこには弾道ミサイルから対戦車砲まで、どこかの国で内戦が起こせるくらいの兵器とその価格が載っていた」
「ほんとうに危機一髪。吐きそうだった」
さらに恐ろしい思いをしたのは、ウガンダに武器工場の建設が決まり、その相談でスペインにあるアレハンドロの「基地」を訪ねたときのことだった。
鋼鉄製の2重ドアをくぐり抜けると、アレハンドロと仲間がいた。
アレハンドロは「アフリカでは情報漏れに気をつけろ」とアドバイスし、盗聴器の探知機を持ち出した。スイッチを入れたとたん、信号音が鳴り出した。