窮地に立たされたA社長は、社長室を出ると部屋の前にある廊下を行ったり来たりしながらこの事態の解決方法を考え続け、10分が過ぎた頃、偶然用事で来訪していたE社労士とすれ違った。A社長はとっさの判断でそのままE社労士を伴って社長室に戻ると、いきなり今回の件について、詳細を説明し始めた。

 説明を終えたA社長は、E社労士に、

「今回B広報部長が家族に話した内容は、会社の機密情報といえますよね?」

 と尋ねた。E社労士はまず、機密情報の定義について答えた。

機密情報の定義とは?

<機密情報とは>
(1) 機密情報とは企業にとって重大な秘密情報のことで、特定の企業を識別できる情報のことを指し、書面やデータ等の有形資料だけではなく、口頭で管理されている情報も含まれる。また機密情報は秘密情報、営業秘密などと呼ばれることもある。
(2) 情報が機密情報として取り扱われるには、「不正競争防止法」(以下、「法律」)で定義されているアからウまでのすべてを満たす必要がある。 
 ア 情報が秘密のものとして社内で厳重に管理されていること。
 イ 情報が営業上または技術上有用な内容であり、その情報が外部に漏えいすることによって企業の利益が損なわれること。
 ウ 情報が公には知られていないこと。
(3) (2)を満たさない場合は、たとえ社内では機密情報扱いでも法律上は機密情報とは認められないため、第三者に漏えいした当事者が法律違反とはならない。

「続いて、B広報部長が家族に話した内容が甲社の機密情報に当たるかどうかを見てみます」

<B広報部長が家族に話した内容は会社の機密情報に当たるのか?>
 (1) 新発売の総菜について、商品レシピ、販売時期及び販売ルート等はまだ公にされておらず、現状は甲社の機密情報としてPC内に保管されているが、2重のパスワードがかけられ、A社長と担当管理職以外は情報を扱うことが不可の状態になっていた。
 (2) 宣伝の件については、CをCMに起用することにより話題性が生まれ、新商品の売り上げにつなげるべく社運を懸けたものであった。もし乙社が事前にこの情報を得て対処された場合、甲社の利益が損なわれる可能性がある。
 (3) Cが甲社のCMに出演することは、先方との約束上A社長とB広報部長以外に知る者はいなかった。

 説明を聞いていたA社長は結論を出した。

「要するにB広報部長は、会社の機密情報を外部に漏らしたということになりますね?」
「そうです」
「じゃあ会社としては責任を取ってもらうために、B広報部長を懲戒処分にすることは可能ですか?」