年金を個人で管理・運用する形は
制度として成り立たないわけ

 であれば、そんなものはまとめて運用せずとも、個人が自分で管理して運用すればいいじゃないかという意見が出てくる。これこそまさにファイナンス脳と言ってよい。実際に「確定拠出年金」は老後資金を自分で運用する制度になっている。

 ところが実は確定拠出年金というのは「年金」という名前は付いているものの、制度の実態は保険ではなく、資産運用そのものである。中身は定期預金や投資信託といったさまざまな運用手段はあるものの、制度自体に保険という考え方はない。

 もちろん、社会保険という制度そのものを否定し、全てを個人の自己責任に委ねるべしという考え方であるなら、それはそれで別にかまわない。ただ、それが行き着く先はおそらく今とは比べものにならないぐらいの大きな格差社会であり、非常に不安定な世の中になることは間違いないだろう。

 現行の社会保険制度である公的年金が土台にあり、その上に資産運用である確定拠出年金を私的年金と位置づけているからよいのであって、“老後の生活保障”という誰にとっても必ず生じる不安を解決するためには、保険である「公的年金制度」が欠かせない。

 言うまでもなく保険というのはそれに加入する人が多いほど制度は安定する。したがって、公的年金制度を今以上に安定したものにするために必要なのは「積立方式」に変えることなどではなく制度の適用を拡大することなのだ。これについてはまた次の機会に詳しく述べたいと思う。

(経済コラムニスト 大江英樹)