事業者としては震度6~7クラスの大地震では、ある程度の設備の損傷を前提として乗客の安全を第一に対応するため復旧は二の次だ。それに対し、震度5強クラスの地震では運転再開を急ぐために設備に問題がないことを確認する。利用者も大地震であれば早期の復旧は期待しないだろうが、後者なら多少の時間で運転再開するだろうと思っても仕方ない。

 どの程度の地震であれば点検を行うかという基準は鉄道事業者によって異なる。沿線の震度を見ている事業者が最も多く、揺れの加速度の単位である「ガル」を見ている事業者もあり、JR東日本は揺れの速度を示す「カイン」を基準に用いている。またどの程度の数値であれば点検するかもそれぞれ異なる。

 ガルは地下構造物の被害と相関が高く、カインは地上構造物の被害と相関が高いと言われている。各事業者がそれぞれの設備の特性(たとえば高架が多い、トンネルが多いなど)をふまえて導入した評価指標であり、安全思想に関わる話なので、無理に基準を統一するのも難しい。

エリア地震計の設置で
点検時間を短縮化

 基準の違いが混乱につながったのが足立区で震度5強、大田区、江戸川区などで震度5弱を観測した2005年の千葉県北西部地震だ。このとき、都営地下鉄は地震発生から15分程度で運転を再開したのに対し、東京メトロとJR東日本は約4時間にわたって運転を見合わせた。

 この時、都営地下鉄は沿線の震度、東京メトロはガル(現在は震度)、JR東日本はカインを点検の基準に用いていた。東京メトロとJR東日本は徒歩点検が必要な値に達していたが、都営地下鉄の地震計では最大震度4にとどまったため、徒歩点検は行われなかった。

 前述のように震度6~7クラスと震度5強クラスの地震には大きな差があるが、もうひとつ顕著に影響するのが震度5弱と震度4の微妙な違いだ。

 ほとんどの鉄道事業者は震度4(またはそれに相当するガル、カイン)以上の地震があった場合に線路点検を行うとしているが、震度4までは徐行運転による安全確認、震度5弱以上は保守作業員の徒歩点検と定めているケースが多い。