そのひとつが、公益財団法人鉄道総合技術研究所(鉄道総研)が開発した、気象庁の緊急地震速報と防災科学技術研究所のK-NETの地震データを用いて、揺れの分布などを500mメッシュで速やかに推定し、提供するシステム「鉄道地震被害推定情報配信システム(DISER)」だ。

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 DISERは地震発生時の運転再開判断や点検時間の短縮を目的として開発されたシステムで、2019年8月から提供を開始。既に複数の鉄道事業者がDISERのデータを利用しているという。点検時間の短縮を目的として利用する事業者が存在するか、鉄道総研の担当者は個別の活用事例についての回答は差し控えるとしているが、実績を重ね、精度が確認されれば、当初の目的通りの活用法が広がっていくだろう。

 ただ繰り返しになるが、震度5弱以上の地震が発生すれば、多かれ少なかれ線路点検は必要になる。路線のうち1カ所でも徒歩点検を実施すれば、ある程度の時間、運転の再開はできないし、運転再開後もダイヤは乱れる。運転再開が早いに越したことはないが、震度5弱以上の地震が発生した場合は、最低12時間は何かしらの影響が生じるものとして行動するのが賢明だ。

 いかなる地震にも耐えるインフラや、即時に出動できる潤沢な保線作業員など、完璧な地震対策を求めればキリがない。その実現には相応の対価が必要であり、今後人口減少が進む日本では望むべくもない。安全確保を前提として、事業者も利用者も柔軟に対応すれば、現在のインフラのままでも十分対応は可能なはずだ。