「隈研吾の建築」が
世界的評価を集める理由とは?

 そんな“隈研吾ワークス”の新たな代表作といえば、やはり東京2020大会の舞台となった国立競技場だろう。サスティナブルでありながらも多様性と日本文化の厚い地層を感じさせる建築物として設計され、全国各地から集めた木材をふんだんに利用する独自のスタイルを世界に披露した。

 特に近年「自然との共生」をテーマとする作品を世に送り出している隈氏の建築は、世界的な課題と目されるSDGsへの解答ともいえるものだろう。だからこそ、今改めて国内のみならず海外でも一流の建築家として確かな評価を集めているのではないだろうか。

 例えばドイツの郊外にたたずむ「WOOD / PILE」は、“瞑想のための建築”をテーマにノイシュバンシュタイン城近くの森に建造された。土地の素材であるモミの木を薄くスライスして重ね合わせる大胆なアプローチにより、建築物でありながら森林でもあるような特異な空間として享受されている。

 一方で、中国・上海の商業劇場「Shipyard 1862」ではレンガ造の造船工場跡地を大胆にリアレンジする形で保全し、長い歴史を見守り続けた施設に改めて花を咲かせる仕事を披露している。

 初期には既存建築の否定を行い、現代では自然への回帰や各都市に遍在するレガシー的な建造物をリメイクするなど、そのキャリア内で常に鮮烈でありながら、どことなく安心感を覚えるようなデザインを生み出す隈研吾は、「日本の名職人」として確実に信頼を積み上げているようだ。