専門家でも偽物を買わされている

 精油の売り上げが伸びた理由としては、手指消毒の機会が多くなり、消毒用のアロマスプレーを自作する人が増えたことが考えられます。私も百貨店やイベント会場、飲食店に入る時は、設置されたものではなく、持参した自作のハンドスプレーを必ず使うようにしています。ふわっとアロマのいい香りが広がるからか、受付の人から笑顔をいただけるので、すごく気分が良くなります。

 こうしたアロマスプレーは、精油の他にスプレーボトルと無水エタノール、精製水があれば、好みの濃度を調整するだけで作ることができます。

 しかし、コロナを機にアロマセラピーに興味を持ってくれた人からの「精油はどこで買うべきか?」「店によっては100種類以上ある精油の中からどうやって選べばいいのか?」といった質問に、「できる限り、専門家がいる店で買うことをお勧めします」としか言えない事情があります。

 主にアロマセラピーやアロマスプレーに使用する植物の芳香成分100%の精油と、合成香料で作られているアロマオイルとを見極めるのは非常に難しいからです。

「オーガニック認証」や「100%ピュア」と表示されているから100%ピュアな精油で間違いないかというと、大丈夫とは言い切れません。また成分分析表がついている精油でも安心とは限りません。

 何しろ専門家である私自身が、表示や認証を信じて何度も偽物を買わされているのです。100%ピュアな精油に安価な液体を混ぜ合わせて、一般消費者レベルでは分からないように作られたものを「偽和(ぎわ)」と業界では呼んでいますが、それをつかまされることがあります。

 なぜ、気付いたかというと、ケミカル(化学的)なにおいがするからです。これに気付くのはたくさんの種類やメーカーの商品を扱ってきた経験によるものなので、一般の人が本物かどうか判断するのは難しいでしょう。

 実際、メーカーに問い合わせて「これは偽和ですね」と言うと、即刻購入金額を返金する会社、「個人の主観」だと突っぱねる会社など対応もさまざまです。また、輸入業者が国内輸入する段階で偽物をつかまされたというケースもあります。

日本は「アロマ後進国」

 精油は安いもので500円前後から高いものは5万円以上のものまであり、価格の幅が広い商品です。偽和だと知らずに、高い金額を払っている人もいるはずです。

 世界的に見ても倫理観が高いはずの日本で、なぜこんな偽物が出回るのでしょうか?

 一般社団法人サイエンティフィックアロマセラピー協会の理事で、においを研究する富研一先生によると、偽和精油が日本に広がる理由は次の三つだそうです。

1.「雑貨」として取り扱われる精油に不純物が混ざっていても取り締まる規則がない。
2.検査費用が数十万円かかり、偽和を自ら立証することが難しい。
3.医療として使われる本物の精油は値段が高いが、日本では趣味や雑貨として扱われるので低価格でなければ売れない。

 日本でアロマセラピーが人気となって20年以上たつにもかかわらず、いまだに本物の精油を買うことが困難なのです。日本は世界から「アロマ後進国」と言われてしまっているのですが、それも仕方のないことでしょう。

 日本ではまだ自然療法として扱われているアロマセラピーですが、欧米では医療行為として認められており、薬局で薬の代替として処方する場合もあります。

 19年に、フランス国立レンヌ大学薬学部アロマセラピーコースの主任講師をされているドミニク・ダヴェンヌ氏の講演会を弊社で開催した際、フランスでは徹底的に分析・研究した上で良質な精油のみを医療グレード認証し、病院や薬局で扱っているのだと聞きました。

 そして、フランスでは医療として精油を扱う場合は国家資格が必要であり、その国家資格を取得できるのは、医師や薬剤師などに限られています。その上、受験資格を得られるのは三つの国立大学しかないということでした。

 フランスでは多くの家庭の薬箱に精油が入っているそうです。それほど慣れ親しまれているのも素晴らしいと感じました。