固定観念を断ち切れなかった森保監督が
オーストラリア戦でついに動く

「私自身は見ていないが、いろいろな記事が出ている状況は知人からの連絡でだいたい想像がつく。ただ、私は一戦一戦、常に生きるか死ぬかの覚悟を持っている」

 手腕に懐疑的な目を向ける報道と、解任を求める声があふれるネット空間を遮断していると明かした森保監督を担ぐために、吉田もさまざまな言葉を発信してきた。

「これまで難しい、厳しいと言われた試合を振り返ると、必ずと言っていいほど途中から出た選手が結果を出している。予選を戦ってくるとある程度メンバーが固定されてくるけど、その中でもワンチャンスをものにする選手が違いを出してほしい」

 9月シリーズを1勝1敗で終えた直後に新戦力の奮起と台頭を求めれば、サウジアラビアに屈し、後がなくなった状況では危機感を共有してほしいと訴えた。

「ワールドカップに出る、出ないは僕たちだけでなく、サッカーに携わるすべての人たちの死活問題になる。それだけのものが自分たちの背中にのしかかっているのは事実であり、そのプレッシャーを力に変えて戦っていかないといけない」

 オンラインでメディアに語った言葉は、音声や文字と化してチームに伝わる。森保監督も刺激を受けた一人だったのか。オーストラリア戦でついに重い腰を上げた。

 サウジアラビア戦の先発からボランチの柴崎岳とトップ下の鎌田大地を外し、ともに今回のアジア最終予選で初先発となる守田英正と田中碧を送り出した。

 ボランチ陣の序列を変えただけではない。中盤の形を含めてシステムも変えて臨んだ大一番で先制点を挙げたのは吉田が求めていた新戦力、東京五輪代表の田中だった。

 後半に追いつかれるも、勝ち越し弾となる終了間際のオウンゴールを誘発したのは、広島時代の愛弟子である浅野。劇的な展開の末に首の皮一枚で踏みとどまった。

 選手たちに「みこしを担ぎたい」と思わせる、うがった見方をすれば支えたいとも、あるいは頼りないとも感じさせる歴代の代表監督にはなかった存在感。そこへ固定観念を断ち切れなかった森保監督が、完璧ではないにせよついに動いた。