人類にはオーバーロードと違って、進化する潜在能力があった。すべての人類の子どもたちがネオ人類に進化し始めたとき、旧来の人類との継続性や同一性は完全に断ち切られ、子どもたちは自分の親すら判別できなくなる。ネオ人類がさらに進化し、オーバーロードと一体化し始めたとき、地球はネオ人類のエネルギー源として完全に消費されてしまう。ネオ人類は、個を完全に消して別の何者かになった。子孫をなくした旧人類は自死するか、消えゆく地球とともに分解された。われわれは絶えたのである。

 図で整理すると下記のようになる(心霊物理学と集合意識の関係は明らかではないが、心霊的につながる波動を物理的な駆動力に変えるといったことが想定されているのではないか)。

人間が個を失い、全能のアルゴリズムに取って代わられる世界は是か非か心霊物理学と集合意識の関係性について本書内では語られてはいないが、おそらく密なものと考えられる。心霊的につながる波動のようなものを物理的な力に変えることが想定されていると思われる
拡大画像表示

 われわれ人類から見て最も幸せそうなのは、オーバーロードである。個が確立し、科学的にも精神的にも成熟し、幸せな社会を構築している(オーバーロードがもともといる母星で)。にもかかわらず、オーバーロードの総督カレランは地球を去る前の最後の演説でこのように言う。

「きみたちがこの世に送り出そうとしている統合体は、きみたちとは性質を完全に異にする存在だ。おそらく、きみたちの夢や希望にはまるで共感を抱かないだろう。過去の偉業を稚拙な玩具と見なすだろう。それでもなお、その統合体は素晴らしいものだ。そして、それを生み出したのは、ほかでもない、きみたちなのだ。(中略)そして、このことだけはどうか記憶に留めておいてもらいたい――私たちはこれから先もずっと、きみたちを心からうらやましく思っているということを」(光文社古典新訳文庫)

 精神的にも科学的にも成熟したオーバーロードだからこそ、種の次元でおこる進化の欲求を個の次元でも感知することができるのだろう。

クラークの「4事象」の概念で
現代・未来社会がわかる

 さて、クラークが構想した(1)1オーバーマインド、(2)オーバーロード、(3)(旧)人類、(4)ネオ人類の構図を現代的に置き換えて考えてみたい。

 本作では、心霊物理学と集合意識が、(1)オーバーロードと(2)オーバーマインドを分けるものとして存在したが、現在の社会では、心霊物理学の発展はないものの、オンライン上のコミュニケーションによるデータの集積とそこから生成されるアルゴリズムによって、ある種の集合意識あるいは集合知のようなものが生まれつつある。この集合意識(集合知)を社会の運営にどのように生かすかによって、世界の在り方は異なるものになるだろう。