2)治療や療養の決定は変更できるがタイミングがある

 厚労省では、人生の最終段階(最期)を迎えるときは「医療や介護の専門職と患者・家族等の間で、本人がどうしたいかについて話し合いを重ねること(『人生会議』と呼ばれている)」を勧めている。

 また、そのとき選択された内容は「患者の心身の状態によって変化する可能性があるため、必要が出てきたら何度でも話し合う」とされている。つまり、人間の気持ちは揺らぐものだから、患者は一度決めたことを変更できる。

 だが、そのためにはタイミングがある。例えば、腎不全の場合、血圧が低い、呼吸状態が悪化した、意識が低下したなど全身状態がよくない場合や、死の直前は透析を実施できない。黒部市民病院腎センター所長(医療安全管理室長も兼任)で、富山県透析医会副会長の吉本敬一医師は「もはや体が透析に耐えられず、透析をすることでかえって死期を早める危険性が高まるからです」と説明する。

 そして、このとき医療者は緊急透析等が難しいことを患者・家族に説明し、カルテに書き残しておくことを勧める。

 吉本医師は「医療者も何度も説明に当たりますが、やはりご家族からも説得していただきたい」と言う。患者本人の意思を大切にすることはもちろんだが、遺族の悲しみまで思いをはせて、家族が納得できる形で終わることが重要になる。

3)医師によって、内科医・外科医の違い、治療法の得意・不得意、価値観の差異がある
セカンドオピニオンを求めよう

 多くの病気の場合、全国どの病院でも標準的な治療を受けられるよう、病気別の診療ガイドラインが定められている。

 しかし、病院に所属する診療科、例えば、外科医は手術が専門、内科医は薬物療法等に詳しいなどのほか、医師それぞれに治療の得意・不得意だけでなく、考え方や価値観の差異があり、治療法の提示や説明が異なる場合もある。

 このため、患者は治療法を提示されたとき疑問を感じたら、別の病院でセカンドオピニオンを取ることを推奨されている。

 また、医学的に透析を続けられるにもかかわらず、強い意思で「やめたい」と訴える患者への対応は、医師だけが患者に関わるのではなく、やはりチーム医療で対応することが望ましい。チーム医療のよさは、あるチームメンバーの言葉は患者の心に響かないが、別のメンバーが対応することで、急に理解が進んだり、話が展開したりすることがあるからだ。

 吉本医師は「かかりつけ医を交えての多職種連携会議が理想的といえるでしょう。また、小規模医療施設で倫理委員会が必要なレベルの難題が出た場合は、それなりの規模の連携医療機関に倫理委員会を委託するなり、人を派遣してもらうなりする方法を模索すべきと考えます」とアドバイスしている。

出典
*1 「見合わせ」とは「透析を一時的に実施せずに、病状の変化によっては透析を開始する、または再開する」という意味。日本透析医学会,透析の開始と継続に関する意思決定のプロセスについての提言,日本透析医学会雑誌,53(4),pp173-217,2020
*2 吉本敬一,竹田慎一他,維持透析患者の死亡時の状況についての検討,日本透析医学会雑誌,52 (6),pp327-334,2019
*3 日本透析医学会,透析の開始と継続に関する意思決定のプロセスについての提言,日本透析医学会雑誌,53(4),pp173-217,2020
*4 透析患者は約33万人といわれているが、透析の見合わせで亡くなる患者は年間1%以下とみられている。
*5 Shared Decision-Making in the Appropriate Initiation of and Withdrawal from Dialysis Clinical Practice Guideline Second Edition, Renal Physicians Association, 2010