ただ、世界の移動ができなくなったことは悪いことばかりではありません。CO2の排出削減やジェット燃料の使用量が減少したことにより、空気がきれいになったという報告もあるのです。こうした変化は一時的なものか、それとも恒久的なものになるのかわかりませんが、すべてが元に戻るということはないと思いますね。

池上:働き方も大きく変わってくるでしょうね。とくに若い世代の人たちにとっては、「働き方」「働く意味」「働く目的」は、古い世代とは異なってくるかもしれません。

的場:資本主義では、お金に還元されるものが労働とされています。ですが、エッセンシャルワーカーのような存在は資本主義的には重要な労働とはみなされていません。賃金が低いからです。しかし、実際の彼らの仕事は社会的に意義のあるものですよね。そういう意味のある労働をいかに理解し、誇りを持っていくかが大事だと思います。

 農民や工場労働者もこの世界を支えている仕事で、たいへんな肉体的疲労をともなう労働をしていますが、資本主義ではそうした意義が認められない傾向にあります。賃金が安い労働は価値が低いことになるからです。

 しかし、ボランティアに集まる若い世代が増えているということは、そうした労働に対する価値観も変わりつつあるのだと思います。

池上『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』(デヴィッド・グレーバー著 岩波書店)という本がベストセラーになりました。ブルシット・ジョブとは、資本家に寄生する、なくても困らない仕事という意味です。この本では、要するに経営コンサルタントのような仕事を指しています。

 こぎれいなオフィスで仕事をし、途轍もない高額な給料をもらい、クライアントに「ちょっとここをこうしたら、もっと売り上げが伸びますよ」と提案を行う。高学歴の若者たちにとっては憧れの業界ですが、ふと「こんなことが何の役に立つのだろうか?」と疑問に思うようになるコンサルタントが少なからずいるようです。