2015年の総選挙ではNLDが大勝し、政権を奪取。スー・チー氏は国家顧問という事実上の政権トップの座に君臨することになった。次の2020年の総選挙もNLDの圧勝に終わり、NLD政権はしばらく安泰と思われた。

 そうしたなか、ミャンマー国軍は2021年2月にクーデターを起こす。前年の選挙で不正があったとして決起し、国内全土に非常事態を宣言したのである。

 国軍による突然のクーデターに国際社会は動揺したが、ミャンマーの人々は果敢に抗議活動を展開した。「暗黒の軍政時代への逆戻りは絶対イヤ!」とばかりに数十万人規模でデモを繰り広げ、銃器をもつ国軍に怯むことなく抗議を続けた。

 抗議運動の盛り上がりは国軍の想像以上だったようで、危機感を抱いた国軍は2月下旬から本気で鎮圧を開始する。各地で実弾の発砲がなされ、市民に多数の死傷者が出た。

 これに対し、市民の側もNLDと少数民族の代表などで組織した国民統一政府(NUG)の傘下にある独自の部隊、国民防衛隊(PDF)の呼びかけで武装化。中心都市ヤンゴンなどで武力衝突が発生し、ますます多くの血が流れた。

 また、職場放棄したり勤務拒否して抵抗の意を示す「不服従運動(CDM)」を行う公務員らが増えたことにより、国の政治・経済が麻痺した。

大戦後の独立で顕在化した
ビルマ族対少数民族の確執

 国軍は3月下旬までにデモをほぼ鎮圧した。しかしながら、仮に軍政を復活させたとしても、国民は反発し続けるし、国際社会の支持も得られないのは明白だろう。それでも国軍が権力を奪取しようと躍起になっている背景には、少数民族の存在がある。

 ミャンマーには人口の約7割を占める最大のビルマ族のほか、カレン族、シャン族、モン族、ロヒンギャ族など、130以上の少数民族が暮らしている。イギリス統治時代は多数派のビルマ族を抑えるため少数民族が優遇されていたが、旧日本軍の支援を受けたビルマ独立義勇軍が1948年の独立に大きく貢献すると、ビルマ族主体の新政権がつくられた。