緊急時の脱出方法を
改善する二つの方法

 今回の教訓を踏まえ、緊急時の車両からの脱出方法を抜本的に改善するとしたら、二つのアプローチがあるだろう。ひとつは緊急時でも確実に所定の停車位置に停車させる手段を講じること。もうひとつは停車位置がずれても脱出可能なホームドアを導入することだ。

 在来線の非常用ドアコックは走行中でも取り扱うことができる。しかし、走行中の車両から脱出することは現実的ではなく、そのような用途も想定されていない。そのため特に高速で運転し、危険の大きい東海道・山陽新幹線では、走行中は非常用ドアコックのフタを施錠して扱えないようにしている。

 今回の事件では、走行中の非常用ドアコックの操作さえなければ所定の位置に停車することができ、車両のドアもホームドアも開けることが可能だった。乗客からすれば避難を意図した行為であったが、結果的に避難を困難にする要因になってしまったのである。在来線の全列車を改造するのは困難だとしても、新型車両から随時、導入する形で検討する必要があるのではないか。

 また、ホームドアについては、設置によりホーム上の安全性は飛躍的に高まるが、半面、車両のドアとホームドアが一致する箇所でしか乗降できないという大きな制約が発生する。そのため故障時や緊急時に備え、ホームドアには非常脱出口が設けられている。ただ、その構造は機種によってさまざまだ。

 JR東日本が山手線に導入した初期型ホームドアでは、戸袋部が観音開きになる構造を採用していたが、現在整備を進めているタイプではホームドアの間に小型のドアを設置している。また小田急電鉄が代々木上原~梅ヶ丘の各駅に設置したホームドアは戸袋部を横にスライドさせて脱出口を確保するタイプだ。

 ホームドアの普及によりさまざまなメーカーが独自の規格でホームドアを製造しているが、利用者の混乱を防ぐためにも、少なくとも今後、設置するホームドアは非常口の構造と操作方法をある程度は統一する必要があるだろう。

 さらに厄介なのが東京メトロ南北線や京王線布田駅に設置されている、線路とホームを全面的に遮断するフルスクリーンタイプのホームドアだ。現在、両線に導入されているものは、ホームの両端にある乗務員が使用するドア以外の非常口がない。