
以下で紹介するふたつの例は、白石隆『崩壊 インドネシアはどこへ行く』(NTT出版)からのものだ。
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スハルト時代の末期には、国営企業の保有していた土地が、なんの記録もないままに民間企業のものになっている、という事態が頻発した。たとえば北スマトラでは、国営の農園会社が経営していた12万ヘクタールの土地が、わずか7、8年で4.5万ヘクタールになってしまった。7.5万ヘクタールの土地は入札もなしに売却されたが、いくらで売ったのか、その金はどこにあるのか、なにひとつわからない。この土地を手に入れたのは、スハルトや州知事、県知事のファミリー企業や関係者だった。
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スハルトが倒れ民主化が始まると、インドネシア各地で村長のつるし上げが始まった。中央政府から下りてくる開発資金や村の財政田の売却代金の行方がわからなくなっているのだ。
インドネシアでは、村長に当選するにも多額の金がかかる。都市に近いほど必要な資金は多くなり、たとえばジャワ島の古都ジョグジャカルタ郊外の村では、立候補の資格試験に3000万ルピア、選挙運動に2000~3000万ルピアかかるという。
インドネシアでは、公職に立候補するには資格試験を受けなければならないが、このとき県知事や地区軍管区司令官などに付け届けをしておかないと合格できない。選挙費用というのは、有権者に投票を依頼する“実弾”のことだ。
村長選にかかる費用は5000~6000万ルピアで、スハルト時代の為替レートだと日本円で250万~300万円に相当する。こんな資金はとてもないから、候補者はみんな華人の高利貸しから選挙資金を借りている。
1979年、地方自治法が改正されて、村長の任期が8年になった(それ以前は終身)。当選した村長は、限られた期間で借金を清算し、蓄財しなければならない。そのためにかなりの無茶をしているから、後から「あのカネはどこに行った」と問い詰められても答えようがないのだ。
各地の村で村長をつるし上げたのは、改革派や左派の活動家・学生たちだが、中心になったのは村長選で落選して利権に与かれなかった村の有力者だった。
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2004年、インドネシア史上はじめて民主的な選挙で大統領に選ばれたユドヨノは、KKN(腐敗・癒着・縁故びいき)の撲滅を最重要の目標に掲げた。
IMFから援助を受ける条件として「統治」「透明性」「説明責任」を要求されたこともあるが、こうした外圧だけでなく、インドネシア国内でも、この悪弊を断ち切らなければ国の発展はないという合意が生まれていたからだ。
こうして2003年末に、独自の捜査権と公訴権を持つ「汚職撲滅委員会(KPK)」が発足し、国会議員や州知事、前閣僚や中央銀行役員ばかりか、警察、検察、裁判所にまでメスを入れ、国民の喝采を浴びた。
ところがその後、事態は一変する。2009年、汚職を取締るKPK委員長が殺人事件の黒幕として警察に逮捕され、一審で禁固18年の有罪判決を受けたのだ。委員長は「はめられた」と主張し、謀略を証明するようなスキャンダルも起きた。KPK副委員長2人も収賄容疑で警察に逮捕されたのだが、それが捜査対象の企業家が捏造したものだと明らかになったのだ(佐藤百合『経済大国インドネシア』〈中公新書〉)。

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<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。
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