ESGやSDGsをめぐる
アンビバレント

日置 日本では、企業経営者の評判はそこまで悪くないはずですが、それでも新型コロナウイルスの感染が急拡大した局面では、従業員の安全確保や雇用をめぐって批判を受けるケースが相次ぎました。

 その一方で、利潤追求だけでやってきたと思われがちなグローバル企業のなかにも、ESGやSDGsが注目されるはるか前から、経済以外の価値にも重きを置いてきたところもありますよね。

 例えば、製薬会社のノボノルディスクは、社会、環境、財務・経済の3つの責任を果たす「トリプルボトムライン」の考え方を経営原則としているし、ユニリーバも「環境・社会との調和」を10年以上前に企業理念に掲げ、バリューチェーン上の社会、自然、労働者に責任を負うと表明しました。

 ユニリーバの前のCEOのポール・ポールマンは、四半期決算発表を取りやめるなど脱短期主義を進めましたが、決して株主を「軽視」したわけではありません。在任期間中には、M&Aや事業売却も着実に実行し、売り上げ成長を実現しながら1株当たり利益を3倍に高めました。社会価値と経済価値の両方を実現したケースです。

宮島 もちろん良いストーリーばかりではないですよね。ダノンでは、自然環境保護などパーパス経営を掲げてきた前CEOのエマニュエル・ファベールが、投資家のプレッシャーによって解任されてしまいました。業績不振や将来の収益をどうやって創出していくのか、明確なシナリオが描けないことが問題視されたといわれています。

 理想を掲げながらも足元の業績を作れなかった経営者に責任があるのか、近視眼な投資家が悪いのか。意見が分かれるところでしょう。

 そうかと思えば、エクソンモービルは今年6月、少数株主であるアクティビストが推薦した環境派の社外取締役を迎え入れました。環境アクティビスト以外の株主も、脱炭素の取り組みの遅れに危機意識を抱いている表れです。一見するとダノンのケースと相反する動きのようですが、温暖化問題が環境や社会だけでなく、経済価値にも直結するという見方が広がっているともいえます。

日置 業績と社会価値の二兎を追うと口で言うのは簡単だけれど、同時に両立することが本当にできるのか、地に足のついた議論が必要です。全ての企業がユニリーバのようにできるわけではない。

 結果的に両方を実現するにしても、経済価値が先行して社会価値に至るのか、それとも社会価値を追求することで経済価値がついてくるのかでは、アプローチの仕方が全く異なります。一般論ではなく、企業ごとに個別具体的に考えることが重要でしょう。

【第3回へ続く】