ガソリンスタンドの過当競争が起きる?

 ガソリン価格は、原油の輸入コストにガソリンスタンドの費用などを上乗せして決まるのが普通である。しかし、場合によっては、ガソリンスタンド相互の過当競争によって、採算割れでの販売が行われることも理論上は起こり得る。その可能性を検討してみよう。

 ガソリン価格の高騰で需要が落ち込むと、ガソリンスタンドは粗利(売り上げ-仕入)で固定費が賄えなくなり、赤字に転落しかねない。そうなると、「1円値引きしてライバルから客を奪い、売り上げを確保しよう」と考える会社が出てきてもおかしくない。

 ガソリンは製品の差別化が難しいので、1円でも安いほうを買いたい、という客が多いと思われる。そのため、売り手側が「1円の値引きで多くの客を奪えるなら、値下げしよう」と考えるのは自然なことだ。

 しかし、そうなるとライバルは「それなら2円の値引きをして、客を奪い返そう」と考え、互いに値引き合戦を繰り広げることになりかねない。

ブラフ戦略が有効な場合も

 そうした不毛な争いを止めるために両社が談合をすると、独占禁止法に違反してしまうわけだが、うまい方法がないわけではない。ブラフ戦略である。

 相手に聞こえるように、大きな声で「わが社は、今日は値引きをしないで、ライバルの値段を観察する。もしもライバルが値引きをしたら、明日はわが社も値引きをする。もしもライバルが値引きをしなければ明日もわが社は値引きをしない」と宣言するのである。

 そうすれば、ライバルは「値引きをすれば今日はもうかるだろうが、明日以降は損をするだろうから、値引きはやめておこう」と考えることが想定される。

 同様の効果は、「当店は近隣で最安値を約束します。当店より安い店を見つけたら教えてください。その値段まで値引きします」というポスターを貼り出すことでも達成される。

 客は単純に「優しい店だ」と思うだろうが、ライバルのスパイが見ると、「わかっているだろうな。お前が値引きをしたら、俺も絶対値引きをするからな」と読めるわけである。

 もっとも、ブラフ戦略は2社だけの寡占状態のときは奏功しやすいが、プレーヤーが多いと奏功しにくい。競合が少ない田舎ではうまくいくかもしれないが、多くのガソリンスタンドが競い合っている都市部では難しいだろう。