供給能力に対する需要が、十分あるか否かがカギ

 以上のように、産油国やガソリンスタンドが過当競争を始めれば、ガソリンの価格は暴落する可能性もないとはいえない。もっとも、実際に過当競争が始まるか否かは、これ以外のさまざまな要因にもよるので、予測するにはより多くの要素を考慮しなければならない。

 仮に過当競争が始まっても、需要が強ければ、それほど価格が下がらないことも十分にあり得る。たとえば、産油国がフル生産したとしても、価格が少し下がったところで需要と供給が一致してしまえば、価格はそれ以上下がらないからだ。

 筆者は原油の事情に詳しくないが、そうしたこともあり得ると考えている。地球温暖化が意識され、石油や石炭などの将来性が暗いものに見えているため、油田や炭鉱の開発があまり行われていないかもしれず、今後もますます開発が減ることは十分に想定されよう。

 そうなると、フル生産したときの原油の生産能力自体が落ちることもあり得る。ひょっとすると、石炭の生産能力が落ちているために「石炭がないから石油で発電する」などという電力会社が出てくるかもしれない。もしそうなった場合には、産油国がフル生産しても原油価格はあまり下がらない、といった事態も起こり得よう。

 ガソリンスタンドについても、新型コロナがこのまま収束すれば、ビジネスも旅行も活発化するだろうから、それほど売り上げは落ち込まず、無理な値引き競争を仕掛ける会社が出てこない、といった可能性も想定されよう。

 消費者としては、ガソリン価格の下落を望む人が多いだろうし、本稿が示したように、理屈上はそうしたメカニズムも働き得る。しかし、過大な期待は禁物だ。今後の推移を見守りたい。

 本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の属する組織などとは関係がない。また、わかりやすさを優先しているので、細部は必ずしも厳密ではない。