スキルアップやリスキリングの意欲を
大企業のベテラン社員に持ってもらうには?

――ポスト・パンデミックのDX時代を迎え、変化が加速する中、日本の企業とビジネスピープルが世界で伍(ご)していくだけの競争力を取り戻すために、日本型雇用制度はどのように変わるべきだと思いますか。

グラットン 日本は先進国で唯一、今も「年功序列」という概念が主流の国という意味で、かなり珍しい国だと言いましたが(インタビュー前編参照)、パンデミックは日本企業のリーダーが自らに、もっと柔軟性のある人材の採用は可能か? また、年功序列ではなくスキルをベースにしつつ、中高年社員に対するステレオタイプな見方を払しょくできるような雇用制度は可能か? といったことを問いかけるチャンスになったと思います。

 実績を上げている50代の社員を年齢で一律にリストラする一方で、40代だからといって、仕事ぶりが振るわない人材をそのままにしておくことが正しいとは思いません。年齢より仕事ぶりにフォーカスすると、今よりはるかに柔軟性のあるシステムをつくることができます。柔軟性は非常に重要です。コーポレートジャパン(日本産業界)にとって、まずもっとも大切なことは、新卒の一斉採用だけでなく、異なる年齢の人材を採用することです。さまざまな年齢の人が入社できるような開かれたシステムづくりが大切です。

 次に、企業は、すべての社員の面倒を一生見ることはできないということを理解すべきです。離職や中途採用など、人材の流動性や柔軟性はとても重要です。

 また、「自分が持っているスキルは何か?」「どのような新スキルを学ぶ必要があるのか?」などを従業員が自覚し、新スキルを身に付けるよう、企業が絶えず後押しすることも非常に重要です。マイクロソフトやIBMはこうしたことに長けているため、従業員の一人一人が自分のスキルを自覚し、業務がどのように変わりつつあり、どのような新スキルを学ぶ必要があるのかを把握しています。

――日本の終身雇用や年功序列制度に守られてきた大企業のベテラン社員に、スキルアップやリスキリングの意欲を持ってもらうには、何がもっとも効果的だと思いますか。

グラットン 社内カルチャーを一新するような大変革プログラムが必要です。何か1つを変えれば済む問題ではありません。例えば、従業員が40歳になったら、会社側が従業員とひざを突き合わせ、残りの人生の過ごし方や必要な新スキルについて話し合うなど、システム全体の変革が必要です。

 もちろん、企業の役割は大きいですが、従業員側も学ぼうというモチベーションを持たなければなりません。新しいスキルを学べば、どのようなチャンスを手にできるのか、どのような学び方がベストなのかを理解する必要があります。

 企業と従業員の関係は「親」と「子供」ではありません。「大人」と「大人」の関係です。企業は従業員の「親」ではなく、どちらも大人です。だからこそ、従業員にはどのような選択肢や課題があるのか、変わっていくためには何をする必要があり、どのようなスキルを構築すべきなのかについて、両者が率直な対話を重ねる必要があります。

 要は、従業員が「自分自身の人生に責任を持たなければならない」ということを自覚できるようなシステムづくりが肝要なのです。