結婚についてはそれでも、経験した人の知識の共有がある程度なされるので、多少は分かりやすいかもしれませんが、葬式は特に分かりにくい。たとえば戒名は字数によって何円が相場か、などといった情報もありませんし、その一文字に実際にはどれだけの価値があるのかといった基準も知らないわけですから、これは当然のことです。

 私もそろそろ終末について考えるような年になってきましたが、自分の名前を大切にしてきた身としては、息子や娘には「死んだ後に知らない人に名前は付けられたくないので、戒名はいらない」と言っておかなければならないな、と考えたりもします。

 自分の信じる宗教を大切にする人にとっては、こうしたしきたりも大事なことなんだろうとは思います。ただ、宗教に対する関心が薄くなった多くの日本人にとっては、戒名に限らず、さまざまな決まり事が慣習としてのみ残っていて、その価値も分からないまま言い値で寄り切られるようなことが増えているはずなのです。

 葬儀などのサービスにおいて、適正価格が広く知られるためには、アナログで扱われていた情報がデジタルになり、それがネット上で共有されるといった動きが進むことも必要です。そうした動きは、これらのサービスをネット上で確立するような、スタートアップを中心としたイノベーティブな企業が現れることによって、少しずつ進んでいくのではないかと考えます。

 葬儀サービスを提供するスタートアップの「よりそう」や、DMM.comグループの「終活ねっと」などもその例です。またアマゾンでも一時提供されていた僧侶の派遣サービス「お坊さん便」などには賛否両論ありますが、お布施の金額がネットの力で見えるようになってきたという側面もあります。このような動きが、これまでは見えにくかった儀礼の価格を見直す機会につながっていることは確かでしょう。

業界の古い体質は自分たちで
ディスラプト(破壊)すればいい

 先ほど、単なる情報の出し惜しみで生まれた情報格差による利益享受と、専門知識への正当な対価との違いについて、少し触れました。

 そもそも、インターネット上にさまざまな情報が共有されるようになり、検索性も高まったことで、「一次情報を知っていること」の価値はどんどん希薄化しています。ただし、そうした一次情報に知識を加えれば、情報をより価値あるものに転化させることができ、専門知識による付加価値を生みます。