「格差社会」の原因が親の収入にあるのなら、裕福なひとから税金を徴収し、貧しいひとに分配することで問題は解決します。これはきわめて簡単明瞭で、正義感情にもかなうので、とても人気のある主張です。
それに対して、経済(教育)格差の原因が遺伝である場合は、原理的に解決方法はありません。こちらは多くのひとの神経を逆なでしますから、「差別」として激しいバッシングにあいます。行動遺伝学の拠点はアメリカですが、研究者たちはリベラルな団体からの抗議と脅迫のなかで、その結論が科学的に証明されていることを示しつづけたのです。
このやっかいな問題をどのように考えるかは個人の自由ですが、ひとつだけ知っておかなければならないことがあります。
「教育格差」を批判するひとの多くは、大学の教員などの教育関係者です。このひとたちは、教育に公費(私たちが納めた税金)が投入されると得をする利害関係者でもあります。大学の授業料がタダになれば学生はいくらでも集まるでしょうし、再教育や職業訓練の費用が国の負担になれば教育市場は拡大して教員の生活は安泰でしょう。
このように、一見すると正しいものの、科学的には間違っている主張の背後には、「偽善」によって得をするひとが隠れています。
あなたは、「気分のいい嘘」と「不愉快な事実」のどちらを選びますか? もし後者なら、この連載をまとめた新刊『不愉快なことには理由がある』をきっと気に入ってもらえると思います。
『週刊プレイボーイ』2012年11月25日発売号掲載
『日本の国家破産に備える資産防衛マニュアル 』
作家・橘玲が贈る、生き残りのための資産運用法!
アベノミクスはその端緒となるのか!? 大胆な金融緩和→国債価格の下落で金利上昇→円安とインフレが進行→国家債務の膨張→財政破綻(国家破産)…。そう遠くない未来に起きるかもしれない日本の"最悪のシナリオ"。その時、私たちはどうなってしまうのか? どうやって資産を生活を守っていくべきなのか? 不確実な未来に対処するため、すべての日本人に向けて書かれた全く新しい資産防衛の処方箋。
<執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>
作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。
|
|