シナリオや訓練項目は毎年変更しており、今回は近年、発生頻度が増している台風や豪雨による被害を想定した訓練を中心に進められた。しかしハイライトとも言うべきは、10月31日に京王線で発生した刺傷事件を踏まえて開催直前になって急きょ追加された「防護装備品を活用した不審者対応訓練」だ。

 京王線の事件では男が乗客を刃物で刺し、ライターオイルをまいて火をつけたが、無差別殺傷と放火は東海道新幹線にとっても人ごとではない。2015年6月には新横浜~小田原間を走行していた「のぞみ225号」の車内で、焼身自殺を図った男がガソリンをかぶりライターで火をつけた。これにより発生した火災で車内に煙が充満し、乗客1人が死亡、乗客と乗務員の計28人が重軽傷を負った。

 2018年6月には同じく新横浜~小田原間を走行中の「のぞみ265号」の車内で、刃物を持った男が乗客3人に切りつけ、1人が死亡、2人が重傷を負った。その他、1993年8月にも「のぞみ24号」の車内で男が乗客を刺殺する事件も起きている。

乗務員や警備員のみならず
パーサーも不審者対応

 こうした事例も踏まえ、今回の訓練は三河安城~豊橋間を走行中の「のぞみ6号」の車内で男が刃物を振り回し、乗客を刺したという想定で行われた。

 乗客役の社員が逃げ惑う中、緊急通報装置で事件の発生を知った乗務員・警備員・パーサーが、業務用携帯電話のグループ通話アプリを活用して情報共有しつつ、さすまたやアクリル製の楯など防護装備品を装着し、現場に急行。

 刃物から身を守りながら、逃げ遅れた乗客を避難誘導するとともに、刺された乗客を保護。その後、客室ドアを押さえて犯人を車内に閉じ込めると、豊橋駅への臨時停車後に駆け付けた警察が犯人を確保するという流れで行われた。

 乗務員や警備員はともかく、多くが女性であるパーサーまで不審者対応に当たることに驚く人もいるだろう。東海道新幹線のパーサーはワゴン販売やグリーン車サービスに加え、車内巡回や旅客対応まで幅広い役割を担っており、異常時の対応もその業務のひとつだ。

 不審者対応についても、研修施設の訓練装置や訓練車両を用いて、防護装備品の取り扱いを含む実践的な訓練を実施しており、自身と乗客の安全確保を最優先に対応にあたるという。

 ところでパーサーといえばスカート姿の制服を思い浮かべるが、異常時対応において動きに制約があり、適さないのではないかという疑問が浮かぶ。これに対しJR東海は、2017年にパーサーの役割拡大を踏まえ、異常時に対応しやすい伸縮性を備えた制服にリニューアル済みだとしている。