国民の生活水準をも
引き下げなければならない恐れ

 わが国経済は、自動車一本足打法を続けるか否かの分水嶺を迎えた。

 わが国経済の自動車依存が続けば、中長期的にわが国経済の地盤沈下は避けられないだろう。自動車産業の稼ぐ力が低下すれば、わが国経済全体で生活水準をも引き下げなければならない恐れが出てくる。それほど脱炭素やデジタル化への遅れは深刻だ。今後、成長期待の高い海外市場への進出を、これまで以上に重視する日本企業は増えるだろう。

 そうした展開を防ぐ手だてはある。自動車が支えた経済の総力を挙げて、新しい産業を育成できれば、わが国経済の縮小均衡に歯止めをかけることはできる。そのためには、政府が経済の安全保障の根幹であるエネルギー政策を大転換しなければならない。とにもかくにも、再生可能エネルギーの利用増加を急ぐことだ。

 それと同時に、労働市場などの規制改革を進め、企業が必要な人材を柔軟に登用できる環境を整え、職業訓練やリカレント教育を徹底するべきだ。

 例えば2000年代初めのドイツは、社会保障改革と職業の訓練と紹介の強化によって経済の停滞を脱却し、自動車や機械、さらには再生可能エネルギーの利用によって経済成長を実現した。

 わが国もそうした前例に学び、人々のアニマルスピリットのさらなる発揮を目指すべきだ。それができれば、新しい産業が育ち、わが国が自力で需要を創出することはできる。反対に、そうした改革を進めることが難しい状況が続くと、わが国経済は世界経済の変化から取り残される。

 1990年代以降、30年以上もわが国経済全体で新しい発想の実現を目指すことは難しかった。新産業育成の重要性は繰り返し議論されたが、本格的な取り組みは進まなかった。

 それだけに、日本経済の先行きには慎重、あるいは悲観的にならざるを得ない。岸田政権は強い危機感を持って迅速にエネルギー政策の転換や規制改革に取り組み、新しい産業を盛り上げていくべきだ。