「ですが、日本は学歴社会。中学まではクラブでも、高校からスポーツ推薦で私立高校に入学し、大学の推薦枠を狙う人も多い。日本ではプロになれなかった場合におびえて、学歴をキープする人も多いのです。中学卒業後にブラジルに渡った三浦知良さんのように、早くからレベルの高い海外に出ることも成長につながりますが、海外に出て成功するのは一握りなので、みな尻込みしてしまう。Jリーグができてどれだけ年数がたっても、学校に依存している現状ではダメ。特に国際競争力の激しいサッカーでは、文科省が仕切っている限り、100年経っても外国に追いつくことはないと思います」

 セルジオ氏は高校サッカーをめぐる組織の在り方についても手厳しい。こう指摘する。

「野球には高野連(日本高等学校野球連盟)という独立した組織があるのに、サッカーは高体連(全国高等学校体育連盟)として、ほかのスポーツの中にひとくくりにされています。僕は海外から来たとき、なぜ野球だけが独立しているのか不思議だったのです。(レベル向上において)高野連の果たしてきた役割は大きいですし、サッカーと扱いが大きく違う。それなら、サッカーも野球にならって『高校サッカー連』を作るべきではないでしょうか」

 その上で、セルジオ氏は世界的スターの不在について、日本人に不足しているある能力を指摘する。

「特にストライカーには、クリエイティビティーが求められます。これは、教えられて身につくものではありません。ペレやマラドーナ、ネイマールも幼いころはストリートサッカーで大人も子どもも一緒になって、自分の頭で考えながらプレーし、センスを養いました。でも日本ではクラブチームでも授業のような形で、教えられたことをこなすだけ。これでは自分で考えてプレーするのではなく、教えられたことを忠実にこなす選手ばかりが生まれてしまう」

 サッカー界においても、グローバル化の波はすっかり浸透した。大陸を渡り、欧州のクラブチームに優秀な選手が一極集中している。前出の北條氏も、「現状では、欧州に早い段階で渡るのが、個人のレベルを上げる一番の近道」と話す。10歳でスペインに渡った久保建英が頭角を現したのは、その象徴だ。

 だが、日本人にとっては「地理的な要因」が、欧州に渡る際の障壁になる。

「ヨーロッパでは隣の国の育成システムで育ち、その選手が代表チームで活躍するという流れがありますが、それは地理的に近いからこそできること。南米も、ヨーロッパが比較的近いので戻ってきやすい。ですが、日本の場合はヨーロッパと離れているので、久保みたいなことをするのはハードルが高い。なかなかできることではありません」(北條氏)

 いくつかの要素が挙がったが、これらは一例にすぎず、実際は様々な要素が複雑に絡み合っているのだろう。北條氏は、最後にこう話す。

「大谷選手は何もない文脈から生まれたわけではなく、日本がWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)で世界一になるような実力を持ち、戦前からの歴史があるような競技だったからこそ。そう考えれば、サッカーはプロができて、たかだか30年ほど。ブラジルのようなサッカー大国では、偉大な先達から脈々と資産が受け継がれていますが、日本では、後の世代が先輩たちをどんどん追い抜いているような状況で、まだまだ発展途上。世界的スターが出ないというのは、ないものねだりなのかもしれません」

(AERA dot.編集部・飯塚大和)

AERA dot.より転載