また情報流通の点では、格付けやラベル表記、原産地呼称統一のような付加情報の在り方も整備されてきたし、ソムリエなどの教育制度が拡充されたことも見逃せない。グラスなど酒器へのこだわりや、一緒に食べる料理との相性、ペアリングやマリアージュの研究も進み、飲食店や家庭でワインを楽しむ多様な文化が世界各国で育まれていった。

「もっとも、こうしてワインを世界中に広めたのは、決して生産者だけではありません。例えば、フランス・ブルゴーニュのワイナリーはどこもごく小規模で、彼らが世界戦略を立てているわけではないと思います。なにより世界のワインの流通の中心はフランスでなく英国で、世界最古で最大のワイン商は、英国王室御用達のベリー・ブラザーズ&ラッドという会社です。また、ワインセラーにしてもワインの生産者が製造して広めたとは思えません」と中田氏。

 要するに、ワインを取り巻くさまざまな役割を持つ者たちが、先に挙げた「適切な情報の提供」「きちんとした品質の担保」「良い物を確実に買える仕組み」という、生産者と消費者をつなげるために不可欠な3項目を実現するに当たり、それぞれの立場で失敗と成功を繰り返しながら築いてきた結果が、今のワイン市場というわけだ。

うまさや技術力だけで
差別化するのは難しい

 再び日本酒に目を向けると、日本酒の蔵元が、より良いかたちで消費者に、それも世界中の消費者に商品を届けるために、「ワインに学ぶ」というのは意義深い姿勢だ。

 しかし、ワインのように長い時間をかけて自然に仕組みが作られるのを待っているわけにはいかない。むしろ、ワインがたどった過程を、周辺業界も含めて、より短時間でキャッチアップすることが「学ぶ」ことの本質だろう。

 伝統産業として地域に根差し、安定した需給があり、消費されてきた日本酒は、かつては特にPRをせずとも、地元経済の中で存在感を発揮できた。

 しかし「食の多様化」「アルコールの選択肢の多様化」などを背景に、日本酒はその地位を維持するのが難しくなってきている。ビールや発泡酒、酎ハイなどが多額の予算を投じてPRに注力する中、日本酒は後れを取っている。

「特に若い世代へのリーチが不足しています。当然ながら差は開いていくでしょう」と中田氏は言う。