「ワインに関して言えば、今どきセラーのないレストランで高いワインを頼もうと思う消費者は少ないのではないでしょうか。ということは、セラーがきちんと普及したことによって、飲食店でのワインの値段も上がっていったはずなのです。

 でも、われわれがSAKE CELLARを紹介しても、今まで存在しなかった製品だから『それは本当に必要なの?』という反応を示す飲食店がいまだに多いのも事実です。ワインに限らず、シャンパンもビールも、醸造酒にとって温度管理がどれだけ重要かということは広く知られていて、ならば日本酒も同じなのは当然だと思うのですが、そうした情報を蔵元が積極的に発信していないのも問題だと考えています」

 また、この背景には、日本酒の瓶のサイズの問題もあると中田氏は指摘する。四合瓶だったらまだ冷蔵庫に入るが、一升瓶となると冷蔵庫に入れるのは難しい。仕方なく外に出しておくことになるので、当然、状態が悪くなる。

 管理のためなら、一升瓶ではなく四合瓶の方が望ましいのは明らかなのだが、一般的に一升瓶は四合瓶に比べ、量は2.5倍なのに対し、価格は2倍。飲食店にすれば一升瓶の方が利幅が大きいので、品質と利益をてんびんにかけると、なかなか背に腹は代えられないのだろう。

 一方で、たとえ販売先の飲食店や小売店で温度管理を徹底していても、物流の段階での温度管理がおろそかであれば意味がない。

「逆に言えば、2倍3倍おいしいものを造るのは簡単ではないけれど、流通を見直すことで2倍3倍おいしい状態で届けることはできるはずです」

 ここでもワインの歩んできた道が参考になりそうだ。

 フランスがリーファー(冷蔵)コンテナを使ってワインの海外輸送を始めた時期や、ワインセラーが日本で売られ始めた時期、その前後において日本国内で販売されるワインの状態はどう変わり、価格にどう反映されたか――。これらは、日本のワイン市場が成長する上で全て連動しているはずだ。

 となれば、日本酒マーケットの成長戦略を考える上で、物流段階での品質管理を徹底させることは当然のアプローチとなる。

 そうした観点で中田氏が取り組んでいるのが、物流と品質保証、消費データの把握ができるトレーサビリティーシステム「SAKE BLOCKCHAIN(サケ・ブロックチェーン)」だ。適正な温度管理に加え、それを徹底的にトラッキングすることで、何度の場所に何日間あるかまで管理できる。結果、お酒の状態も分かる。

 すなわち酒蔵から最終消費者までのサプライチェーン情報を共有・可視化するプラットフォームである。

「生産者にとっての最大の思いである、良い物を良い状態で消費者に届けるための仕組みであり、消費者にとっては、良い物を確実に買える仕組みとなります」

 さらにSAKE BLOCKCHAINは、生産者にとって重要な「価格」を見極める有用な道具にもなるという。