中田英寿氏が日本酒業界に持ち込んだ「イノベーション」の中身なかた・ひでとし/JAPAN CRAFT SAKE COMPANY代表取締役。元サッカー日本代表としてW杯に3大会出場。2006年ドイツW杯のブラジル戦を最後に29歳で現役を引退。引退後、09年4月より全国47都道府県を巡る旅をスタート。以来、10年以上生産者を巡る旅を続けている。この旅をきっかけに日本文化・伝統産業に可能性を強く感じたことから、日本文化を発信する事業を多数手掛け、15年にJAPAN CRAFT SAKE COMPANYを設立。また、20年4月には立教大学客員教授に就任。さらに、石川・金沢に移転した国立工芸館の名誉館長にも就任した。

「価格というのは、需要曲線と供給曲線の交点で決まるわけですが、一般的にはそれがどこかは見えません。それを解決するのがSAKE BLOCKCHAINによる流通管理です。SAKE BLOCKCHAINで商品一つ一つを追い掛けるというのは、供給量と需要量、そしてどこにどのくらい在庫があるかが全て見えるということですから」と中田氏。

「理想は、売り切れもしないし、売れ残りもない、製造した量に対して1本残るような値付けこそが、まさに適正価格といえるでしょう。生産者が物流段階のデータまで全て見られるというのは、限りなくその値付けに近づくように試行錯誤できるということです」

 さらに、自分たちの商品が、どの国の飲食店でどんな料理と共に楽しんでもらえているのか、そんなシーンを見極めながら商品を投入していける。まさしく、データを武器に自分たちで市場を創っていくことが実現するのである。

日本酒での成功を
伝統産業全体に横展開

「日本酒が直面している問題は、日本の伝統産業全体に通ずることだと感じています。だから、こうしたアプローチによって日本酒にイノベーションを起こすことができれば、焼酎やお茶、しょうゆ、工芸品などなど、広く横展開できるかもしれない。まずはその先駆けとして、日本酒が伝統産業全体の希望になることができたら、と思います」と中田氏は抱負を語る。

 中田氏が日本酒をはじめとする伝統産業に関わるのは、決してノスタルジーや古いものを守りたいという義務感からなどではない。伝統産業の分野は衰退しているとはいえマーケットは大きいし、今後も可能性があると信じているからなのだという。

「物を食べない人、飲まない人、物を使わない人はいません。人間が生きていく上で、日々の行為に関する市場は、決してなくなることはない。今の世の中に合うかたちにすれば、伝統産業の市場はまだまだ大きくなります。その中で、頑張って挑戦する人が伸びていける構造を創っていきたいのです」