「酒屋さんなどお酒を扱うところには免許制があり、守られてきた歴史的背景があります。今のように競争原理がなく、ある意味、仕方のない部分もありました。ただ、我々は何のために日本酒を造っているのか、と自問する機会にもなりました。我々の望みは、美味しいお酒を楽しんでもらう、その一点のみです。それを実現するための流通が整っていないのなら、整理するまででした」

 水野氏は既存の得意先をすべて見直したという。正しい温度で管理し、日本酒に対しての造詣も深く、情熱を持って日本酒を扱う酒屋さんに限定し、その後、日本酒を届けることにした。当然ながら、売り上げは落ちたという。苦しい経営状況になることは理解していたが、このまま信念なく運用したとて、明るい未来は想像できなかった。

味わいを守るための人材雇用
商品ごとに異なる貯蔵温度

 水野氏が意識したのは酒の品質管理だけではない。酒造りに携わる人材育成にも改善を進めた。

 水野氏の学生時代である今から30年ほど前は、日本酒業界と言えば季節労働者を蔵に迎え入れて酒造りを行うことが当たり前だった。黒龍酒造でも同じく季節労働者を迎え入れての酒造りをしていたが、季節労働者の高齢化と、酒蔵にノウハウを蓄積する必要性を考慮して、自分たちで酒造りの職人を育てていく方針に変更したという。

「日本酒はもろみから原酒を搾った状態で終わるのではなく、貯蔵管理をしないと最終的な商品にはなりません。その管理をするのは人の仕事です。職人として専門知識を持った人に管理してもらうことで、美味しい酒を造る、美味しい酒を管理する、美味しい酒を流通させる、この3点を大きく改革しました」

 品質管理にこだわる黒龍というイメージは、水野氏が代表となってから定着していった。今でも限られたパートナーでしか販売ができない。黒龍酒造での温度管理も徹底されており、商品となるお酒によって、それぞれ貯蔵温度が異なるという。

「毎年、全く同じ日本酒ができるわけがありません。しかし、黒龍酒造の味わいというものを守っています。毎年の気候によって原料である米や蔵内環境は変わります。

 また、和醸良酒という言葉があるように酒造りにはチームワークも必要となります。毎年変わる自然環境を見据えながら、創意工夫する人材が大切になります。やはり酒は人が造るモノです。