「ロー対ウェイド判決は憲法に依拠しておらず、民主的プロセスを損なっている。法律を害しているのだ」と州政府の訟務長官の発言も強気だ。

 これに対して女性の選択権はすでに憲法で保障されていると主張するリベラル側の旗色は明らかに悪い。リベラル派のエレナ・ケイガン最高裁判事が「最高裁は大声を張り上げる人々の声だけに左右される機関であってはならない」と発言したことでも事態の深刻さが分かる。

ドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキルドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキル
蟹瀬誠一 著
(プレジデント社)
1650円(税込)

 2019年、ジョージア州で「ハートビート法」が成立した際には憤慨したリベラルな米メディアや映画界大手が新法を撤回しなければロケ地を変更すると訴え、州政府を慌てさせたことがあった。ジョージアは映画やテレビ番組が多く制作されている州で、エンタメ業界に撤退されると州にとっては経済的な大打撃となるからだ。

 ハリウッド女優のアリッサ・ミラノに至っては「セックス・ストライキ(同法が撤回されるまで性行為を拒否)」を呼びかけ、多くの女性が賛同するという珍事まで起きている。結局、そんな混乱の中で連邦地裁が新法は憲法違反だとの判断を下して、同法は撤廃された。

 しかし、今回はそう簡単にはいかない。来年の中間選挙を前にアフガン撤退や新型コロナ対応で支持率が急降下しているバイデン政権にとっては、予想以上に厳しい逆風となりそうだ。

(国際ジャーナリスト・外交政策センター理事 蟹瀬誠一)