業績が停滞している経営者ならば
継続雇用者の人員整理やM&A、退職金の前払いで節税する?

 反対に、もしわたしが業績が停滞している大企業の経営者だったら、どうするでしょうか? 優秀な社員に上乗せする賃金の原資すらない。だったら、賃金を上昇させない形で従業員の給与総額を上げる方法を模索するかもしれません。

 たとえば、外注を切ってパートに置き換える方法はありでしょう。今回の税制では「継続する雇用者の給与総額」ということで、新規採用を増やしてもその年の税額控除にはプラスにはなりません。しかし、継続的に外注をパート従業員に置き換えていけば毎年、継続従業員の給与総額はすこしずつ増えていきます。具体的には清掃業務や警備員、大口の配送など外注でなくてもできそうな業務を、非正規従業員に切り替えていくことで達成できそうです。

 同じ仕組みをより大がかりにやるならば、毎年4%程度、健全な零細企業をM&Aする手があります。本体でやらなくても、グループ会社に節税専門の安い人件費の会社を作って経理操作で利益をそこに集めるようにすることもできます。これも、次年度以降は「継続する雇用者」の数が増えることになるので、節税効果がありそうです。

 近年、税的メリットを狙って大企業が資本金を1億円以下に減資して中小企業になるという例が増えています。JTBやかっぱ寿司(カッパクリエイト)、毎日新聞などが有名な例ですが、世間体よりも節税だというのが大企業経営の流行です。それがありなら、賃上げ税制でもこういう手もありえます。

 給与総額の定義では、前払い退職金も給与総額に含まれることになっています。前払い退職金制度とは退職金相当額を給与に加算して支払う制度で、大企業でも導入例が存在します。これまでは企業のメリットとしては退職給与引当金が減る、つまり負債が減るため財務が健全に見えるということが重要でしたが、この制度は賃上げ税制対策に使えるかもしれません。

 要するに、社員から見れば毎年の給与が増えて、退職時の支払いが減るわけです。退職金は制度上、給与総額には本来含まれないのですが、前払い退職金に制度変更すれば給与総額が増える。この制度を悪用すれば、賃上げ税制メリットを得られるわけです。