始動からゲームのリリースまで、実に4年以上のタイムラグがあったが、今年ついにブレーク。満を持しての大賞受賞となった。この点について、ゲームジャーナリストの小野憲史氏はこう分析する。

「ゲームは開発からリリースまで、とにかく時間がかかりました。もともと2016年ごろからメディアミックスプロジェクトとして始動したのですが、2020年1月にアニメ(第二期)が始まった時も『まだゲームが出ないのか』と、私も驚きました。実は2019年にプロデューサーが途中で変わっているのですが、これはプロ野球でシーズン途中に監督が変わるチームみたいなもので、たいていはうまくいきません。ひょっとして制作中止もあり得るかなと心配していたのですが、いざ出てみたらクオリティーがものすごく高くて驚きました。いい意味で裏切られましたね。交代したプロデューサーの手腕も、非常に優れていたのだと思います」

 ウマ娘の魅力の一つは、なんといっても細部までこだわったキャラ設定だろう。髪の色や体格、性格や走り方まで、実際の馬の特徴が細かく再現されている。例えば、大柄の馬であるヒシアケボノは、ウマ娘でも180cmと大柄な設定。ウオッカは寝つきが良いといった特徴まで再現されている。こうした点についてレジェンド騎手の武豊氏も、11月2日に配信した当サイトのインタビュー【武豊騎手が「ウマ娘」ブームを語る「よみがえってうれしい」と語った悲劇の競走馬とは】で、「(制作陣の)競馬愛を感じる」と絶賛していた。

 前出の小野氏もこう語る。

「ウマ娘がネットでバズった理由は、ゲームのクオリティーもさることながら、それぞれの競走馬が持つエピソードや特徴を巧みに盛り込んでいる点が、SNSを中心にネット上でネタとして消費されやすかったからです。登場する競走馬や競馬文化に対するリスペクトが、作品の随所にしっかりと表れています。ともすれば、美少女化された競走馬を調教して走らせるという安易な印象を与えかねない企画ですが、コンテンツに対する愛をもって作り上げたことで評価されたと思います」

 ブームの余波は、現実にも及んでいる。ナイスネイチャなど、ウマ娘のモデルになった引退馬への寄付が倍増するなどの現象も起きている。また、ウマ娘のゲームアプリが配信された翌月から、馬券を買う若者が急増。レースの投票サイト「JRA IPAT」への年代別アクセス数を見ると、20代ユーザーが今年3月ごろから急増し、60代と並ぶ水準に。かつて「若者の競馬離れ」と言われていた状況は様変わりした。そして若者だけでなく、もともと競馬好きだった40代まで取り込んでおり、購買力のある彼らが課金することによって、アプリの売り上げを支えている。

 これまでのところ、十分すぎるほどの好成績を収めているウマ娘。小野氏は今後についてこう指摘する。

「同じ育成ゲームでも、プロ野球チームを作るゲームでは、ホームランバッターや足が速いなど、さまざまな選手の評価軸があります。ショートやレフト、ピッチャーなどポジションも多いので、選手や育て方の多様性が出てきます。それが競走馬だと、評価軸は結局のところ速いかどうかに尽きるので、早く飽きられてしまわないかという懸念はあります。ですが、その点については企画を立てた段階で織り込み済みだと思うので、これからどういう風にコンテンツを育てていくのか、ユーザーとして楽しみです」

 快進撃を続けるウマ娘。今後は“長距離レース”での持久力も試されることになりそうだ。

(AERA dot.編集部・飯塚大和)

AERA dot.より転載