殺伐とした空間を彩ったaikoの思い出
青春の群像はaikoにあり

 恋愛ソングで真骨頂を見せるaikoだが、彼女のことが好きだった男たちが、現代風の言い方をするなら“恋愛脳”や“恋愛体質”だったのかというと、これがそうでもない。むしろ普段は恋愛の匂いのしない男がaiko好きであることが多く、何かその男の秘めたる純なる部分が垣間見えて、また風情があってよかったのである。
 
 筆者は家で外でよくaikoを聴いていたが、際立って思い出深いのはマージャンをするときにかかっていたaikoだ。筆者は学生時代にジャズ・フュージョンをやっていて、音楽にうるさく、はやりのポップスを敬遠していた。一方、雀卓を囲む他3人は音楽にうるさくなく、また面倒な筆者の趣向を許容してくれていた。
 
 だから麻雀時にかかる音楽は、基本的に筆者の検閲じみたチェックを受けることになる。そんな中で許されていたほぼ唯一のJポップがaikoで、他のメンツもaikoが好きだったので、一晩中aikoが流れていた(4人の気持ちが戦闘的な方向に高まってきた際は時折X JAPANがかけられた)。
 
 進路が散り散りになった昔の仲間たちで集まり、紫煙で白くかすみ20代の男4人の熱気がムッと立ち込める部屋に響くaikoのかわいい歌声と麻雀牌の触れ合う音…。明け方が近づき、おのおのもうろうとして無言でゲームが進行している中、aikoが「手をつないで~」などと歌った直後に誰かが唐突に「『手をつないで~』だってよォ!」などと叫んで牌を卓に打ち付けリーチをかける。
 
 aikoが醸す雰囲気には到底そぐわない殺伐とした場であるが、我々にとってあの得難き青春の空間を彩るBGMは、今振り返って考えてみてもやはりaikoしかない。