DXの技術的なハードルを乗り越えるには

 DXバイアスを克服できても、今度は技術的なハードルを飛び越えなければならない。DXにおいてはデータの活用が前提となっているため、少なくともデータを扱うための知識が必要になってくる。

 そのための基本となるのが、統計学である。統計学というのは、バラツキのあるデータを分析して数値上の性質を調べるもので、DXだけでなくさまざまな学問において重要な知識となっている。そのため、日本でもようやく、いくつかの大学が文系・理系にかかわらず、統計学を全課程で必修科目にするようになっている。

 次に必要な技術的知識として、機械学習もある程度学んでおく必要がある。機械学習は「機械」(コンピューター)がデータを自動でどのように「学習」し、ルールやパターンを導き出すかというもので、「人工知能(AI)」や「ディープラーニング(深層学習)」とも深く結びついている。

 マネジメント層が統計検定やディープラーニング検定に合格する必要はないが、GAFAなど世界中の大手企業が、統計学や機械学習を事業でどのように利用しているかを学ぶことは、非常に重要となる。

将来を見据えた人材採用戦略を

 ここまでは人材教育について述べてきたが、その他にもう一つ重要となるのが、企業における“10年後を見据えた採用戦略”である。ここでは、スキルやコンピテンシーなど、人材に関するデータを取ることが必要となる。

 2018年に国際標準化機構(ISO)が発表した人的資本に関する情報開示のガイドラインであるISO30414においても、「全ての空きポジションに対する空き重要ポストの割合」をデータで示す必要性が挙げられている。

 私たちIGSが調べたところによると、欧米では10%の企業が、このデータ開示を統合報告書で始めている。日本ではまだそこまで多くないが、それでも、必要な人材をデータで把握し、人材戦略に反映する企業は確実に増えている。

 DXを推進していく中で、特に情報科学、統計学などを駆使してDXに必要なデータを扱うデータサイエンティストは、日本ではまだ数が少なく、長期的視野を持って採用・育成していく必要がある。

 また、これまで自身の経験や勘、努力によって実績を上げてきた人も、そしてそれに頼ってきた企業も、「デジタルアレルギー」に縛られることなくDXを推進していくことが、これからは重要だ。

 日本はDX後進国といわれているが、既に多くのイノベーションを起こし、世界のトップを走ってきた日本企業の力があれば、巻き返すことは可能だろう。そのためには、一人一人がDXバイアスを乗り越えていく必要があるのだ。