ジム・オニール氏「新しい資本主義」を築くためには政府と企業はどうすべきか?  Photo:Courtesy of Jim O'Neill

ブラジル、ロシア、インド、中国の4大新興国を「BRICs」(ブリックス)と名付けたことで知られるゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)元会長、ジム・オニール氏。退職後、英国キャメロン元首相の下で政権入りし、英財務省の政務事務次官を務めた経験も持つ。現在はエコノミストとして多くのメディアに出演するなど多忙な日々を送るオニール氏。オミクロン変異株の感染拡大が始まった2021年12月、ロンドン在住の同氏にリモートで取材した。世界経済の予測などを盛り込んだ前編「これほど不確実性に満ちた年はない」に続き、後編では日本企業へのアドバイスや中国型資本主義の将来などについて語った。(聞き手/ニューヨーク在住ジャーナリスト 肥田美佐子)

日本企業の生産性を
上げる最善策は?

――日本では過去20年超にわたって賃金が停滞しています。昨今、この問題が盛んに議論されており、年功序列や終身雇用制度、定年の延長など、日本特有の雇用制度がおもな原因だという指摘もあります。その点についてどう思いますか?

Jim O’NeillJim O'neill(ジム・オニール)
1995年、米ゴールドマン・サックスに入社。チーフエコノミストとしてグローバル経済部門の責任者を務める。2010年からゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント(GSAM)会長。2013年にGSAM会長を退任し、2015~2016年の間、英財務省の政務事務次官を務めた。 Photo Courtesy of Jim O’Neill

ジム・オニール(以下、オニール) 1つ、キーフレーズが抜けていますよ。「生産性の低さ」です。

 1960年代から70年代にかけて、日本では非常に力強い生産性と実質賃金の伸びが見られました。そして今、日本の実質賃金(注:物価を考慮した賃金)の低さは、生産性の低下と完全に一致しています。

 そうした(生産性という)点から考えると、一見、別物に思われますが、終身雇用制度も日本にとって、ジレンマの1つといえるかもしれません。

 とはいえ、欧米諸国も、2008年(の金融危機)以降、同様の問題を抱えています。欧州の多くの国々で生産性が停滞し、賃金の伸びが鈍化しています。各国政府は、問題解決に真剣に取り組まなければならず、日本の新政権も環境を変革すべく、本腰を入れる必要があります。

――日本企業の生産性を上げる最善策とは?

オニール 事業を運営する「精神的なアプローチ」の仕方を抜本的に変え、真の変革と改革を阻む「硬直性」を撤廃しなければなりません。

 私がもう何年も訪日していないのはなぜか、わかりますか? たわいもない話ですが、日本の硬直性を示す一例を挙げましょう。