ほんの少しの嘲笑で、人の夢は簡単に潰れる

で、ですよ。

私が言いたいのは、そういう中途半端に絵が上手い女というのは地雷の可能性が高いからあんまり関わらない方がいいですよということでも、自意識こじらせつつもクリエイターを目指すみなさん、お互いがんばりましょうね☆(ゝω・)vキャピ、ということでもありません。

ただ、ほんの少しの嘲笑で、人の夢は、人生は、簡単に潰れてしまうということなんです。

たとえば私は、自分の夢が潰れた最初の瞬間を、はっきりと覚えています。

小学6年生のときのクラスメイトの村山くん(仮名)が「漫画なんて描いてるんだってー!」と言ったあの瞬間にドッ、とクラス中に笑いが広がりました。その瞬間に、私にとって「絵を描くこと」がただの「楽しいこと」から「やってはいけないこと」に変わりました。隠れて描くようになりました。恥ずかしいという感情が芽生えました。

好きなことに、恥ずかしいも恥ずかしくないもありません。やりたいことがあればやればいいし、仕事にしたければすればいいんです。自意識と折り合いをつけ、なんとかかんとか書くことを仕事にできるようになった29歳の今なら自信をもってそう言える。しかし、子どもは何も知りません。何もわかりません。知恵も知識もない。そんななかで、自分を肯定する道具を見失ってしまうと、前もうしろも見えなくなるのです。

SNSが急速に発達しだした世界で思春期を過ごし、受験をし、就活をし、大人になってきたゆとり世代の、平成生まれの私たちはとくに、こういうことで苦しめられてきたと思います。前略プロフィールやモバゲーやmixiやアメブロやFacebookやツイッターやインスタやはてブやnoteやpixivやYouTubeやメルカリの流行とともに友達を作り、親に反抗し、恋をし、大人になってきたんですから。

一般人が自己表現をするのは恥ずかしい、という風潮の中で子ども時代を過ごしてきたのに、一般人でも自己表現をするのは当たり前、という風潮の中で、働かなくてはいけない。お金を稼がなければならない。

「発信をするのが普通」の感覚で成長してきた現代を生きる小学生や中学生にとっては、子どものうちからYouTubeのチャンネルを持つのも、メルカリで商売をするのも、起業をするのもプログラミングをするのもさして珍しいことではなくなってきました。

時代の流れが変わって、自由に自己発信できるようになったのはいいことです。とてもいいことだけど、でも、いまだプライドと自意識と自己肯定感をどうコントロールしようかと、無自覚に苦しんでいる平成生まれはたくさんいるんじゃないかと思うのです。私もそうだったけど。

別に、だから私たちもじゃんじゃん発信していこうよ! 自己表現しようよ! と言いたいわけじゃなくて、ただ、そろそろ、子どもの頃の私たちを、解放してあげてもいいんじゃないかな、と思うのです。

おそらく私たち平成生まれは、「周りの目」を一番気にしてしまう世代です。

自分がどう見られているか、恥ずかしい、痛いやつと思われていないか、考えてしまう世代だと思うのです。

もう、自由になってもいいんじゃないかな、と。

「仲間外れにされたくない」とか「存在意義がほしい」とかそういうのを抜きにして、ただ好きだから、という理由だけで行動をしても、いいんじゃないか。

周りから笑われて心をえぐられた私はたしかに今も体の芯の部分に存在しているわけですが、そいつの存在を認めた上で、次に進んでもいいような気がするんです。そろそろ。

「クリエイター」なんて言葉にもこだわらず、ただ、なりたい自分になる、それだけでいいんじゃないかと、ようやっと思えるようになってきました。いや、頑張って自分に言い聞かせているという方が、近いかもしれませんが。

さまざまな葛藤を乗り越えて、人は大人になります。ようやくかよ、おせーよと思われるかもしれません。でも、いいんです。

一歩一歩納得して前に進む。

たしかに、「認められたい」「居場所がほしい」という気持ちが消えたわけじゃない。それでも、そういう承認欲求の強い自分ともうまく折り合いをつけながら妥協しない選択をし続ければ、いつか、自分で自分を肯定できるようになる。きっと。

時代は、変わりつつあります。

たとえ自分のことを好きになれなかったとしても、最低限、私が私の味方でいられさえすれば、苦しくなりつつもなんとか、生き続けられそうな気がするのです。

牛歩でいい。

ちょっとずつでいい。

それでもいいから、私は変わりたい。

さあ、新しい私をむかえ入れる、準備をはじめよう。

川代紗生(かわしろ・さき)川代紗生(かわしろ・さき)
1992年、東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。
2014年からWEB天狼院書店で書き始めたブログ「川代ノート」が人気を得る。
「福岡天狼院」店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」がヒットし、天狼院書店の看板メニューに。
メニュー告知用に書いた記事がバズを起こし、2021年2月、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に取り上げられた。
現在はフリーランスライターとしても活動中。
私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)がデビュー作。