遷都が実現すると、実際に新首都に転居することになる国家公務員らはどう思っているのか。周りの友人に意見を聞いてみるとさまざまな反応が返ってきた。「もうジャカルタ周辺にマンションを買ったのに」という否定的な見方もあれば、「各種手当が出るから」と歓迎する人もいたし、「ジャカルタにたくさんあるモールが恋しくなりそう」と嘆く人も。

 首都移転の費用のうち国家予算で賄われるのはわずか19%。50%超を官民連携(PPP)で実施し、残りは民間投資が担う予定となっている。

 コロナ禍前は、外国の投資家も大いに関心を寄せていた。代表的な例は、2020年1月にジョコ大統領と会談したソフトバンクの孫正義会長兼社長だ。「AIや最新技術を使った新たなスマートシティーについて(ジョコ大統領らと)議論した」と語り、将来的に投資する可能性を示唆した。そして時を同じくして、アラブ首長国連邦アブダビ首長国のムハンマド皇太子やイギリスのブレア元首相が移転計画の審議会にメンバーとして加わった。

 ジョコ大統領は就任以来、鉄道・港湾・高速道路などインフラ整備を大プッシュしてきた。そんな大統領が遷都の着実な履行を既定路線にしたがっているのは間違いない。任期切れとなる2024年に向け、集大成とも言える遷都の着実な履行を自身のレガシーにしようとしているのは間違いない。2014年、2019年と大統領選挙で直接対峙し、その後閣内に引き入れたプラボウォ氏は各世論調査で「次の大統領候補」トップなのだが、彼は移転計画への支持を表明済み。最近では、ジョコ氏の盟友である華人政治家、バスキ・チャハヤ・プルナマ前ジャカルタ州知事が新首都のトップに指名される可能性が取り沙汰されている。

 地元英字紙『ジャカルタ・ポスト』のコーネリアス・プルバ氏は、移転計画をてこにジョコ大統領が憲法を改正して3期目を狙うという見方を最近のコラムで披露した。

中国が資金援助する
可能性も

 中国の動きも気になる。プルバ氏は同コラムの中で、外国投資家の関心は低下しており、「ジョコ大統領は資金面で中国に頼る必要が出てくるかもしれない」と記している。同氏は筆者に対し、「中国が非公式に(プロジェクトへの)参加の意思を示した」と明かした。

 反対論には、国防の観点から費用がかさむというものがあるが、長い目で見ると、カリマンタンとは目と鼻の先の南シナ海の領海紛争との兼ね合いも焦点になってきそうだ。

 歴史・社会・経済・政治、そして国防とどの角度から見ても論点が多いインドネシアの首都移転プロジェクト。予定通りにヌサンタラの街が建設され、2045年に遷都を完了できるのか。今後もますます目が離せそうにない。