カンボジアでも人材流出の懸念
労働力は、経済力の弱い国を源流とし、豊かな国へと流れ出る。アジアの中で、カンボジアはどうみても源流に位置する国だ。ここでも、アイミーのように一族の暮らしを背負った男女が、ひとり見知らぬ国で出稼ぎをするのが、「貧困脱却の近道」とされてしまうのだろうか。タイとベトナムという、域内でも経済成長著しい国々にはさまれたカンボジアの行く末が気になる。
単純労働であれ、技術者であれ、人材を失った国は空洞化する。国内の産業が育たず、海外の出稼ぎ者から送金される資金で、消費への欲求だけが膨らんでいく。今でこそ、新たな日系企業の投資先として見直されているフィリピンだが、人材流出は今も深刻な問題であるはずだ。
それにフィリピンでは、社会の中で失ってはならない人材が流出していた。「お母さん」だ。フィリピンの出稼ぎ労働者は女性の方が男性よりも多い。看護師や介護士、メードなど女性に適しているとされる職業の出稼ぎが多い。フィリピンでは、母親が出稼ぎで何年間も留守になり、子どもの教育に深刻な悩みを抱える家庭が増えて社会問題になっていた。
もっとも、カンボジアのフン・セン首相は、労働力の空洞化、社会の空洞化をすでに警戒している。
首相は12月12日、プノンペンで演説し、「国内の労働力を確保するために賃金を上げる必要がある」と、述べた。特にカンボジアの主要産業である縫製業の労働者について触れ、「縫製業では、労働者の獲得競争が起きている。もし、縫製業界が、労働者にもっと高い賃金を払ったら、彼らは(外国へ行かずに)国内で働くだろう」と、述べた。
プノンペン・ポスト紙によると、タイでは、最低賃金でも月額300ドルの収入を得ることができるという。同紙は「これはカンボジアの工場労働者の月収の3倍以上」という。
また、フン・セン首相は、不動産や建築に投資が集中する傾向にある中国や韓国の企業に比べ、国内産業の裾野を広げ、カンボジア人の雇用を創出する日系企業の投資を、とりわけ歓迎しているともいわれる。
経済統合という掛け声のもと、東南アジア諸国の国境を越えた人の流れはますます太くなるだろう。どの国の人々も、自分の働く場所を選べる社会であって欲しいと思う。

(文・撮影/木村文)
1966年生まれ。国際基督教大学卒業後朝日新聞入社。山口支局、アジア総局員、マニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地発行のフリーペーパー「ニョニュム」編集長に(2012年4月に交代)。現在はフリー。
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