「なぜ、部下は思い通りに動いてくれないのか」

 「なぜ、期待通りに育ってくれないのか」

 こうした嘆きの声が、多くの管理職の方々から寄せられます。

 上司が命令や指示を出しても、部下は効率よく動かなくなった。たしかに、その通りなのです。では、なぜ彼らは、これまでのようには動かなくなったのでしょうか。そのことを、心理学をひもときながら考えてみましょう。

理屈で動かない部下たちに
上司の権力は通用しない

 数年前までの企業研修では、かつて全盛だった「猛烈型社員づくり」が相変わらず続いていました。会社のために、とにかく一生懸命に頑張る社員をつくろうという研修です。ところが現在は、そのような研修は見かけなくなりました。なぜなら、「猛烈型社員づくり」の研修を行なっても、何ら効果が見込めなくなったからです。

 もう、上司の言うことを聴いたからといって、将来は保証されていません。いまや企業の役職はほとんど詰まっていて、無理して役職をつくっても肩書だけのもので終わってしまう。それに、上司の命令に忠実に従ってきた社員が目の前で次々とリストラされているわけです。そういうものを見たときに、もう権力では人は動かなくなるのです。

 ところが多くの上司は、相変わらず自分が働いてきたような動機で部下を従わせようとしています。意識的あるいは無意識的に、上司の権力がまだまだ通用すると考えているのです。

 だから、心の充足を求めている部下に対して、権力を行使して部下の感情を押さえ込もうとしてします。部下の立場からみれば、「心の充足」という一番の目的が叶わなくなる。「それだったら、無理して命令に従うこともないな」と感じてしまうのです。