AIによる暗黙知のデータ検証で
「本当に悪いヤツ」がわかる?

 一方で、これから暗黙知に導かれてデータを検証する人は、いくらでも活躍することのできる豊穣な機会がある素晴らしい時代に突入しているのである。

 またその際には、AI(ディープラーニングなど)の活用によって新秩序がたくさん発見されることも間違いないだろう。よく「AIの出した答えについて、なぜそうなったかの過程がブラックボックスで説明できない」「AIの判断が間違っていたときに責任を問えない」という議論がある。しかし、もともと人間の認識自体が言語化できない暗黙知の働きによって生まれており、理由があるとしても、それは部分的にそれらしく仮装しているにすぎない。

 いくつかの面から見た際に、複数の相関性があるという程度のことで因果性が認められ、個人の責任が追及されてきたのである。本当は、直接的な行為を引き起こした当人のアクションよりもはるか手前の出来事との因果性のほうが強いことが、AIの利用などでわかることになるだろう(真に悪いヤツがわかるということである)。

 AIの判断の中に、言葉にできず判別不明なものであるからといって、それほど奇異なことではないのである。AIは人間の仕事を奪うどころか、その意味では人間と同じ思考プロセスを持つ仲間とすら言えるかもしれない。

 科学技術の闇やダークサイドという負の側面は常について回るだろうが、ポランニーは知の働きをよい方向に使うという前提で本書の議論を展開しているので、そこはご承知おきいただきたい。

 さて最後に、幅広く人間の知的活動をテーマに扱う本書に興味を持たれた方に向け、(編集者が書いたであろう)カバーの紹介文を転載しておきたい。本書を読む前にこれを読んでも、理解するのが難しいかもしれないが、ポランニーの主張がコンパクトかつ的確に代弁されている、大変優れた紹介文である。

「暗黙知は生を更新し、知を更新する。それは創造性に溢れる科学的探求の源泉となり、新しい真実と倫理を探求するための原動力となる。隠された知のダイナミズム。潜在的可能性への投企。生きることがつねに新しい可能性に満ちているように、思考はつねに新しいポテンシャルに満ちている。暗黙知によって開かれる思考が、新しい社会と倫理を展望する。より高次の意味を志向する人間の隠された意志、そして社会への希望に貫かれた書」

 AIなどの技術が進化し、それを人間が上手に使うことで「探究者の社会」に入りつつある今こそ、読むにふさわしい希望の書である。

(プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役 秋山 進、構成/ライター 奥田由意)