金の本質は不変資産
株式とは決定的に違う

 アメリカの平均株価であるS&P500は、1999年から直近までの23年間で価格は4.4倍になっています。金が8倍になったのと比較すれば、株の上がり方はたいしたことがないように見えます。しかし、価格が上がった理由が違います。株価が高騰したのは、投資対象であるアメリカの500社自体が成長したからなのです。

 わたしたちが株にお金を投資すると、企業はそのお金を使ってビジネスに投資をします。そのお金は回り回って、工場を建てたり倉庫を建てたり人を雇ったりと、さまざまな形で企業の成長を助けます。そして企業は、平均すればお金がもうかるはずです。これは資本主義では当然の前提で、投資しても損をするのが平均だとしたら、誰も投資などしません。

 つまり株に投資をするということは、投資したお金が成長することを意味するわけです。だから、株価は上下を繰り返しながらも、長期で平均して見れば上昇傾向にあるのです。ちなみに、日本の株価はアメリカの株価のようには順調に上がっていません。投資をしても平均すれば損をする可能性があるところが日本経済の弱点なのですが、それはまた別の話ということで、今回はそれ以上の説明は割愛します。

 ちなみに、金には産業用という実需の側面があります。金の加工需要は8割方は宝飾品ですが、2割程度がエレクトロニクス部品に使われます。このエレクトロニクス方面での実需は、株と同じ成長資産の側面を持ちます。21世紀に入って金価格が右肩上がり傾向にあるのは、その実需が着実に増えていることの影響が少なからずあるでしょう。

 とはいえ、金の大半は地金かコインか宝飾品としての需要で、投資をしてもあとは持っているだけ。それ自体は成長しません。成長しない投資対象としては絵画も同じ性質がありますが、ゴッホやバスキアの絵画がどんどん値上がりするのは一点しかない希少性からです。

 金は貴重で希少でも一点ではなく、同じものがたくさん存在する。あくまでコモディティーだということで、それ自体の価値は大きくは変わりづらい。基本は成長資産ではなく、不変な安全資産なのです。

 実際、1980年の金価格高騰の際はオイルショックで安全資産が求められたことが理由でした。2020年に金価格が再び高騰したのは、コロナ禍がきっかけで投資マネーが金に流れたから。そのコロナの影響が残る中でのウクライナショックで、さらに安全資産の金が買われたことで最高値になったというのが一番分かりやすい説明でしょう。

 だとしたら、タンスの奥に眠っていたゴールドのネックレスを換金してみるのは、今はいいチャンスなのかもしれません。この先のことはどうなるかは分かりませんが、それでも今がお宝をそれなりの価格で買ってもらえるタイミングであることは、間違いないのですから。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)