── 絵本の中に、かいじゅうたちのこわいものが、見開き(本を開いた2ページ)いっぱいに出てくるページがあるのですが、このページを親子で見て、互いのこわいものについて話しあった時は、自然な感じで、負の感情についておしゃべりが弾みました。

森野 家族療法の一つの学派にナラティブセラピー(Narrative Therapy)というものがあります。これは、それまで気づかなかった自分の物語を言葉にして語ることで、今まで見えていなかった新しい自分、隠れていて見えなかったけど、実は勇気のある行動もたくさんしているなど、バラバラでつながっていなかったエピソードを一つの物語として確立し、その過程で新しい自分に気づくというものです。

『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』36~37ページより『かいじゅうたちはこうやってピンチをのりきった』36~37ページより
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専門医を受診する目安とは

── 子どもが何かを極度に怖がっている場合、どんなタイミングで専門医を頼ればいいのでしょう? 心の問題は、発熱のようなわかりやすいきっかけがあるわけではないので、迷われる親御さんも多いのでは。

森野 それによって子どもの生活に影響が出てきたら、というのがひとつの目安です。子どもが本来享受できるはずのものが、できなくなっている場合です。

 学校へ行けない、友達と遊べない、食べられない。また、本来のその子らしさや能力が発揮できなくなっていたら、安心できる第三者のところに行って、相談してみるといいと思います。最初から精神科に行くことに抵抗があるなら、小児科で相談してみてもいいですね。小児科を専門基盤にしながら、子どもの心も診てくれる「子どもの心相談医」という資格制度があり、日本小児科医会のホームページに医師のリストも載っています。

 ただ、不安や恐怖を抱くというのは、生きていくための本能がきちんと育っていることでもあるんです。怖がることができるのも大事な能力です。ですので、あまり心配して先走らず、子どもの生活が圧迫されて、その子らしさが損なわれているようであれば、シンプルに専門家に育児チームに入ってもらう、という考え方でいいと思いますよ。

「正しい親をやれていない」
親自身が抱えるプレッシャーも取り除く

── お話を聞いていて、もしかしたら親自身の不安や心配を、子どもに投影しすぎている場合もあるのかな、と思いました。私たちが1日に受け取る情報量は、ひと昔前に比べると信じられないほど増加しています。膨大な情報を得ることで生じた焦りや不安が、無意識のうちに、子どもに影響しているのかも、と。

森野 親御さんへ向けられる「正しい親をやっていなくてはいけない」というプレッシャーが、年々強まっている気がします。でも、その正しさは人から与えられた「正しい親」でしかないんですよね。イギリスから帰ってきて感じたのは、日本がだいぶ怒りんぼ社会になっているな、と。私たちの大事な未来の一員を育てているのだから、一回一回の失敗に、目くじらをたてるような社会ではなく、育児中の親御さんを「ごくろうさま」と、あたたかい目で見られる空気が広がるといいですね。

 今は、親自身が常に批判の目にさらされて、慎重になって不安を抱えている。評価の基準も一通りしかない。子どもがちょっとでも間違えると、親の方がショックを受けすぎてしまう。「育児書の通りにいかない」と、心配になって受診される親御さんもいらっしゃいます。でも、親もべつに失敗してもいいと思うんです。わたしも親ですけど、自分なりのやり方で、失敗を重ねながら、試行錯誤してやっていくのが育児だと思います。

── わたしも、やや先回り母さんだったかもしれません。先生とお話するうちに、だんだん肩の力が抜けてきました。