記者からは、1カ月の休業要請ともなれば生活が立ち行かなくなる人も現れるのではないかという声が上がった。そこで派手な音楽とともに登場したのが、財務大臣・豊臣秀吉である。秀吉は、外国人や幼児を含む、日本に住む人全員への一律50万円給付を発表した。給付は10日以内に完了することが宣言される。そんなことをどうやって実現するのかという質問に、秀吉は「知らん」と言い放つ。

「それはわしの仕事ではにゃー」

 将の仕事はあくまでも「決める」こと。将のもとには「成し遂げる」者が集まるものだ。実行はそういう者を信じて任せればよい。

 有無を言わせぬ偉人たちの迫力に呑まれたまま、記者会見は終了した。

◇警視庁長官・大岡忠相のもと、新選組が違法営業を検挙

 衝撃の会見後、日本で初めて「ロックダウン」が実施されることとなった。

 家康が優れていたのは、政治を安定させる組織構築能力である。その鍵となるのが官僚だ。現代における官僚の生みの親は家康といっても過言ではない。家康は、政策遂行のために現代の官僚を現場で監督する官僚が必要だと考え、外出禁止を徹底するため、警視庁長官として大岡忠相を抜擢した。今回のロックダウンでは特に人口の多い東京での外出制限の徹底が重要となる。そのために、時代は違えど東京を熟知する忠相が採用された。

 忠相は全国の警察を動員し、繁華街を中心に見回りを強化した。特に新宿、六本木、池袋などの歓楽街には新選組を特別任務担当として配置し、違法に営業を行っている者を検挙した。違法に営業を行う者の中にはいわゆる反社会勢力の者たちもいたが、「本当の暴力」のにおいがする、新選組の近藤勇、土方歳三、沖田総司らを前にすると震えあがった。また、新選組の抜擢がメディアで報道されると、彼らは正義のヒーローとして熱狂的に受け入れられた。その結果、違法な店は瞬く間に姿を消した。

 一方、生活の基盤となる食料品や医薬品、生活用品の買い出しは地域、年齢、人数によって時間を決めて行われた。この指揮にあたったのは、経済産業副大臣・大久保利通である。明治時代に廃藩置県の混乱を統制した最強官僚たちは、「国民の生活の基盤を壊さず、人との接触を最低限に抑え込む」という目的達成に向け、すさまじい勢いで計画の立案と修正を繰り返した。その勢いに現代官僚も刺激を受け、新旧官僚が死力を尽くして職務にあたる。