『週刊ダイヤモンド』3月12日号の第1特集は「物流危機 『上級企業』と『下流宅配』」です。上流にいるアマゾンが大手宅配頼みを脱却する一方で、下流の中小運送業者は下請けからの脱却に乗り出しました。物流危機が市場に構造変化をもたらしているのです。その全容と裏側に迫ります。

下請けの中小運送業者が
荷主から直接受注

ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社が9割以上のシェアを握ってきた宅配市場に、大きな構造変化が起こっている(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の大手3社が9割以上のシェアを握ってきた宅配市場に、大きな構造変化が起こっている。

 荷物量が増えたことで、新たな配送プレーヤーが参入したり、立ち位置を変えるところが出てきたりした。3強の牙城が崩れてきているのだ。

 大きな変化の一つは、アマゾンのように、宅配大手の大口顧客という上流の位置にいるところが自ら物流網を構築していること。そしてもう一つが、宅配大手などより下流に位置してきた下請け中小運送業者による、上流からの直接受注だ。

 荷主は高い運賃を払っているのに、元請けから下請けへ、下請けからさらに下請けへと仕事が下りていくことで、実際に運ぶ業者はろくに利益を得られない。そんな状況から下請けが脱却を図ったのである。

 中小運送業者の強みは直接請け負うことで、中間マージンを抜かれずに取引ができる点にある。

 荷主企業にとっては運賃が割安になり、運送業者自身も下請けをするよりも高い運賃を得ることができる。

 配達時間を細かく設定しなかったり、人口密度が比較的高いエリアを中心にしたり、サービス内容をシンプルにすることも割安運賃を可能にする仕組みの一つになっている。

 そんな下請けが元請けになって展開するLCC宅配ビジネスに乗り出しているのが、ラストワンマイル協同組合だ。中小の運送業者約50社で組織して宅配事業を展開している。

 設立は2018年で、大手が運賃値上げや総量規制を行った「宅配クライシス」のタイミング。目下、配送エリアをどんどん拡大している。

 ビジネスモデルは「LCCのようなもの」と志村直純理事長。航空業界のLCC(格安航空会社、ローコストキャリアー)の宅配版というわけだ。

仕事が減ったBtoB業者が
BtoCに流れてきている

 加盟業者には、これまでBtoB(企業間取引)の物流を手掛けてきたところも多い。コロナ禍の影響もあってBtoBの仕事が減る一方で、BtoC(企業と消費者間の取引)の宅配市場が拡大していることを受けて、流れてきているのだ。

 物量が多い荷主からは、大手に頼む運賃より億円単位で下がる提案ができるので驚かれるという。

 代表的な取引先は、家具量販のイケアやスポーツ用品メーカーのアディダスなどだ。

 取引先は増やしても、大口顧客や宅配大手の専属にはならない。どこかに首根っこをつかまれたら、一方的な価格をのまされて利益が出せなくなったり、突然仕事を切られたりしかねない。独立したポジションを貫く。

 下請け経験から学んだ生存術である。

物流クライシスの中で
激変する宅配ヒエラルキー

 『週刊ダイヤモンド』3月12日号の第1特集は「物流危機 『上級企業』と『下流宅配』」です。宅配大手が荷物の総量規制と配送料の値上げに踏み切る「宅配クライシス」に震撼したのが2017年。そして昨年末、宅配最大手であるヤマト運輸の配送現場は大混乱に陥っていました。クライシスは終わっていなかったのです。

 ヤマトだけではありません。物流産業だけでもありません。小売り、メーカーなどあまたの企業・産業が物流危機に直面しています。

 そんな中で、宅配、そして物流のヒエラルキーは大激変。全容と裏側に迫ります。

(ダイヤモンド編集部・土本匡孝、松野友美、大根田康介、臼井真粧美、名古屋和希)