自社のセミナーで「お断わり」
証券マンは危険な存在なのか?

 ついにここまで来たか、と半ばあきれる記事があった。『日本経済新聞』12月24日朝刊1面に、「こわもて規制 民間が萎縮」「証券マンお断り」と見出しのついた記事が載った。

(電子版・有料会員限定の記事はこちら⇒http://www.nikkei.com/article/DGXNASGC20010_Q2A221C1SHA000/

 この記事の冒頭に衝撃的とも言えるエピソードが載っている。ある証券会社が顧客のために高名な学者を呼んで自社の会議室でセミナーを開催した。すると、出席した金融機関の人間の1人が、証券会社の担当者に向かって「あなたは部屋から出てください。密室で証券マンから不正に情報を得たと、後で疑われたくないので」と言ったのだという。そのセミナーをアレンジした証券マンは、席を外すしかなかった。

 読者は、この状況をすんなり理解できるだろうか。

 率直に言って、この金融機関の人間は、人間性にいささか問題があると筆者は考えるが、目下の機関投資家側の過敏ぶりをうかがわせるエピソードだ(相手が証券マンで自分が客だとはいえ、セミナーのアレンジで世話になった相手に出て行けとは何だ! 複数の客の前で証券マンが機微に触れる情報を話すはずがないし、他社の証人もいる。心配なら、自分が来なければいいではないか)。

 これは、結局、最大手の野村證券の社長交代につながった一連の増資情報に関するインサイダー取引事件(以下「増資インサイダー事件」)の余波だろう。

 野村證券の営業担当者から、同社が幹事団の一角を務める増資案件の情報を事前に得ていた信託銀行系運用会社のファンドマネジャーが、自分の運用するファンドで当該銘柄を売って、利益(第一義的には顧客のための利益だが)を得ていた事件だ。