武雄の逆鱗に触れた佃の“乗っ取り”
複数のグループ会社社長就任は許さない!

 かくて、“査問会”の開催が決定した。宏之は「あのときは、父もまだしっかりとしていましたので、家族を同席させて事の顛末を明らかにしようとしたのです」と説明する。

 この報告会でのやり取りも録音されている。武雄の発言には同じような言葉の繰り返しがあるので、対話の真意を曲げないようにしつつ読みやすくまとめられる部分はまとめて再現してみよう。なお、「( )」で括った解説と文中の太字は筆者によるものである。

 ロッテ日本の社長の佃でございます。(略)

宏之 今、こんなにたくさん(の会社の社長を)一人で……

(佃が宏之を追放して後任の社長となったグループ会社のリストを武雄に見せる)

武雄 これ、どういうこと、これ。

小林 違います! 会長さんお待ちください!

(突如、小林が大声を上げて武雄の至近距離まで詰め寄り、武雄の怒りに油を注ぐことになる。

武雄 お前はなんだ!?

小林 日本ロッテの小林でございます。

宏之 口答えしないで黙っていなさい。

小林 (武雄に対して)彼、なんですか。

(彼=宏之は追放した部外者なのに同席していることを責めるような態度を取る)

宣浩 その言いっぷりはなんなの。

武雄 なんなの、お前は。出て行け!

 その後、小林は二言、三言の発言をするも退室。ロッテの“神様”を前に弁明すらできないぶざまな姿に、約半年前のロッテHD取締役会で見せた小賢しい能弁さは見る影もなかった。ここから武雄の追及の矛先は佃に向かう。

武雄 佃、今何カ所社長やってんの。

 はい。ここに記された通りでございます。

武雄 それ、全部の社長をやってるの。

 私が社長をするようにと、ご指示をいただきました。会長からご指示をいただきました。

武雄 俺は君をグループ会社の社長にしたことはないよ。

 そうおっしゃられると困るんです。

武雄 うちはね、そんな3社も4社も社長やってんのはいないの。あり得ないことだよ! いい加減なこと言うなよ!(略)

 今、今、しています。で、この間……。自分でなったというよりも、ちゃんと打ち合わせを経ております。

武雄 社長に任命するときには、会長(武雄)に許しを得てからするんだろ?

 全部ご説明申し上げております。

武雄 なぜ、お前、自分で勝手にやるんだ。

 勝手にやっておりません。

武雄 俺はそんなの言ったことない! 今までね、1人が会社を3つも4つも社長をやったことはない、前例がないのよ。あり得ないことだ!

 私が仮に全部こう、するようにと……。

武雄 俺がそう言ったというわけ?

 はい、そうでございます。

武雄 俺はそんなの言ったことないよ。そんないい加減なこと言うなよ!

 いや、そうおっしゃられたらもう致し方ありません。

宣浩 佃は「会長の言葉だ」と言ってます。日本で勝手に会長の指示だと吹聴してるんでしょ。

 宏之や昭夫がロッテグループの複数の子会社の社長に就いているのは、それはあくまでも事業を承継する息子たちだからであって、それ以外の者に複数の会社の社長を任せることはない。武雄は、それぞれの子会社に優秀で信頼できる社長を配することでグループ全体の発展を図ってきた。それが武雄の経営原則の一つであり、経営理念とさえいえるものになっていた。

 また企業防衛の観点からも、従業員持株会の結成すら渋った武雄が、ロッテHD株を保有する子会社群の社長を赤の他人に、しかもたった一人に委ねることなど絶対にあり得ない。だから、佃が複数の子会社の社長に就いているのは乗っ取りとしか考えられないし、「会長の指示」などまっ赤なウソと判断できるのだ。そもそも宏之の追放を報告していないのに、宏之に代わって佃が子会社の社長に就任するという社長交代人事をどのように武雄に相談したり、報告したというのだろうか。