内田樹内田樹さん(c)水野真澄

内田:はっきりと態度にする場合もあるし、暗黙の場合もありますけれど、教師が「こいつはいじめても構わない」というサインを出しているんです。子どもは「いじめても処罰されない」という保証がないと、なかなか踏み切れない。だから、この子をいじめたら、先生からきびしく咎められるということがわかっている子には手を出さない。

 先生だって、気に入らない子がいるんです。大人の本音を見透かしているような子どもや、統制を乱すような子どもは、先生にとっても目障りだし、疎ましい。そういった子に対しては、叱り方に微妙にとげがあったり、絡みかたがしつこかったりする。そういうわずかなシグナルでも「あいつはいじめても大丈夫」と子どもたちはわかる。

岩田:そして、集団でいじめる。

内田:子どもたちも、程度の差はあれ、暴力的なものをうちに抱えているんです。これはどうしようもない。だから、その暴力性や攻撃性をどうやって適切にリリースするか、それを教育者は工夫しなければいけない。子どもは誰もが「天使」であるわけじゃない。けっこう禍々しいものを抱え込んでいるんです。

 だから、本気で学校からいじめをなくしたいと思っているなら、「子どもには攻撃性、暴力性が潜んでいる」ということをまず認める必要がある。その上でそれを小出しにリリースさせて、クラスメイトに向けて暴発するきっかけを与えないように気づかう。子どもが子どもに向けて暴力を振るってもいいという「言い訳」を決して子どもに与えてはいけない。

岩田:その言い訳とは、特定の子を「叱る」ような、教師自らが出すGOサインのことですね。