卒婚願望を抱えつつも
実行できない事情

 ここまでの話を聞くと、夫婦が互いの意思を尊重する“卒婚”は、前向きな選択に思われる。だが、前述の「e-venz」のデータによれば、卒婚願望を抱えつつも実行していない人は多い。その理由は何か。

「単純に、卒婚は夫妻双方の合意がないとできないからです。自分が卒婚したくても、パートナーが同じ気持ちとは限りません。それに、そもそも卒婚の概念が明確に定義されていない現段階では、『卒婚したい』と提案しても『何言ってんの?』と返されることも少なくありません」

 加えて、そもそも「卒婚」の文字が頭をよぎっても、その覚悟が本物かどうか判断できず、実行できない人もいる。ちょっとしたけんかのたびに「卒婚したい」と感じても、また一緒に過ごせば相手を好きになってしまうこともある。浮気などの決定的な要因があれば別だが、小さな不満の積み重ねで卒婚を決断できる人は少ないそうだ。

「現実的には、金銭的なハードルもあります。卒婚は離婚とは異なり、法的な婚姻関係は続くため、パートナーや夫婦間の子どもに対して、最低限の扶養の責任は残る。男性が卒婚して他の人と付き合うためには、妻や子を養いつつ、デート代もかさむことになり、金銭的な負担も大きいです」

 それに、卒婚したからといって、必ずしも良い結果を得られるとも限らない。

「卒婚後、いざ妻が彼氏をつくると『どんな男だ』と問い詰めてしまう人もいます。お互いを束縛しないと決めた関係とはいえ、一度愛した相手の恋愛事情が気になるのは必然でしょう。こうしたトラブルが積み重なり、関係がより悪化、最終的に離婚に至る可能性もあります」

 このほか、夫婦が合意した上で新しい恋人を見つけようとしても、「既婚者には手を出せない」と、相手にされないことも多いそうだ。

「世間では卒婚に対する認知度はまだ低く、今後マジョリティーになるのも難しい概念です。とはいえ、卒婚は本来、『互いの欲望を満たし合えない』と悩む夫婦が現状を打破し、お互い一度きりの人生をより良いものにするための考え方。お互いのことを思い合い、卒婚がベストな選択だと考える人もいるんです」

 本記事は不倫を助長・推奨するものでは決してない。だが、夫婦関係のあり方が多様化する中、相手の幸せを尊重するために“卒婚”を選ぶ人も増えていくのかもしれない。