改心した4年生が打ちまくり連勝
優勝がかかる早慶戦へ

 小宮山は自著『令和の「一球入魂」』で、今の学生たちを「宇宙人」と呼んだ。

 そう言う小宮山(1965年生まれ)の世代も学生当時は「新人類」などと呼ばれていた。従来の常識とは違う考え方。いつの時代にもある「今どきの若い奴は」という年配者の心理だろう。しかし小宮山は「今どきの若い奴の質は、確実に悪いほうに変わってきている」と見ている。

 今井はさすがに猛省を見せ、10月2日の東大戦でスタメンに復帰することになった。ただし打順は8番。東大戦は2試合とも早稲田が大勝しているが、彼は2日間で11打数8安打と大暴れした。

 続く法政戦は2試合続けて0‐0の引き分け。

 そして明治戦では4番に座る。期待に応えて連勝に貢献した。

 さあ早慶戦。ここで連勝すれば逆転優勝である。連敗スタートから、ここまで盛り返した。

 その早慶戦1回戦を5‐3で勝利。

 最終戦に勝てば優勝だ。

 2回戦も緊張感みなぎる展開となり、3‐3で9回裏、早稲田の攻撃を迎える。

 2死二塁。ヒットが出れば早稲田のサヨナラ勝ちである。

 ここで早稲田ベンチは代打を送る。4年生の小野元気。

 この場面、小宮山は「代打ならば小野」と決めていた。小野はグラウンドで一番バットを振っていた。学生コーチの占部晃太朗に「小野でいくか」と声をかけると、「お願いします!」と占部は笑顔で応えた。

 小野はセカンドフライに打ち取られた。慶応の優勝である。

 これでいいんだ。小宮山はそう思っていた。

 皆がその努力を認める4年生を大事な場面で送り出す。それが早稲田の監督の役目なのだ、と。

 そして今井は首位打者を獲得。ベストナイン(一塁)に選出され、秋季リーグ戦のMVPにも輝いたのだった。

(敬称略)

※参考文献:小宮山悟『令和の「一球入魂」』ベースボール・マガジン社、2021

小宮山悟(こみやま・さとる)
1965年千葉県生まれ。早大4年時には79代主将。90年ドラフト1位でロッテ入団。横浜を経て02年にはニューヨーク・メッツでプレーし、千葉ロッテに復帰して09年引退。野球評論家として活躍する一方で12年より3年間、早大特別コーチを務める。2019年、早大第20代監督就任。