アメリカンジョークは
誰かを傷つけがちなもの

 さて、実は私はアメリカのジョークをかなり真剣に勉強したことがあります。アメリカ社会でビジネスパーソンとして活躍しようと思ったら、パーティー文化にとけ込む必要があって、その際に気の利いたパーティージョークを一つぐらいは用意しておくことが大切だからです。そしてアメリカンジョークというものは、必ず誰かを傷つける性質があります。

 アカデミー賞の授賞式は、プレゼンターがそういったパーティージョークを披露する場です。

 私の歴代のお気に入りのジョークは、ヒラリー・クリントン元大統領候補にまつわるもの。プレゼンターがさらりと言ったそのジョークは、「ヒラリーのお気に入りの映画は『キル・ビル』です」というものでした。

 やぼを承知で解説すれば、ヒラリーの旦那さまはビル・クリントン元大統領で、在任中にセックススキャンダルでさんざんたたかれた人物です。当時、ヒラリー・クリントンはそういった過去がなかったかのように、夫とともに仲睦まじく笑顔で選挙活動をしていた。でも本当は、彼女の好きな映画は『キル・ビル(ビルを殺せ)』だろうというのがこのジョークです。これが披露されたその瞬間、授賞式の会場は爆笑の渦でした。

 全米が大爆笑だったであろうこのジョークも、よくよく考えればビル・クリントンやその不倫相手だったモニカ・ルインスキーの心を傷つけたはずです。「もう昔の話なんだから、そっとしておいてくれよ」と思ったことでしょう。

 私がアメリカンジョークを研究したのは20年ぐらい昔の話で、今あらためてその研究成果を披露するとしたら、「ビジネスの現場では、もうアメリカンジョークは使わないほうがいい」というのが私のアドバイスです。

 というのも、アメリカンジョークには伝統的なテーマが4種類あって、大半の気の利いたジョークは権力者を揶揄(やゆ)したもの、宗教をばかにしたもの、男女のセックスをテーマにしたもの、そして人種や出身国をテーマにしたものだからです。

 言い換えると、面白いアメリカンジョークとは「必ず誰かを怒らせる話」だということです。