若手芸人とベテラン芸人のネタに滲み出る
日本のジョークの「変化」

 では日本ではどうでしょうか? M-1グランプリなどでの若手芸人のお笑いと、普通のバラエティー番組でのベテラン芸人の話芸の違いを見ると、日本でもジョークの質が変わりつつあることが発見できます。

 ベテラン芸人さんのバラエティー番組での話芸は、「イジリ」がベースになることが多い。これは一歩間違うと「いじめ」と同じなのですが、ベテランらしく事前の信頼関係の作り方や、相手の反応を絶妙に読む線引きから、それが楽しい話題として成立しています。

 しかし同じ「イジリ」を若手がやると、その線引きを越えて誰かを怒らせるリスクがある。だから、若手のお笑いは今では「ファンタジー設定」が主流です。ありえない顧客が訪れるコンビニとか、不思議な道具を手に入れた人の行動などという設定から笑いを取るのです。ありえない設定での笑いならば、誰かを傷つける可能性は限りなく低い。だから、それを若手は選ぶわけです。

 笑いのプロを取り囲む環境はこのように変化しているわけですが、私たちビジネスパーソンが職場内で笑いを取ろうとすると、どうしても「イジリ」の要素が入ってしまいませんか。

 これを窮屈な時代だととるか、それとも正しい時代になってきたととるか、人によって捉え方はさまざまでしょう。本当に気の置けない仲間と一緒にきわどいジョークを楽しむ権利について、私もとやかく言うつもりはありません。しかし、ビジネスという場ではそれがリスクになる。「風のうわさで第三者に伝わった段階で誰かを傷つける話を、お金という利害がからむビジネスの場で披露する必要などない」というのが私の意見です。

「面白い」という言葉には、いろいろな意味があります。ビジネスの場で「面白い人だ」と思ってもらい、ビジネスを円滑に進めるというのは良いことです。しかし、その面白いは別にアメリカンジョークのようなきわどいものである必要はありません。ユーモアだって「面白い」だし、ユーモアやジョークがなくとも、興味深い話だったら「面白い」です。