橘玲の世界投資見聞録 2012年12月27日

[橘玲の世界投資見聞録]
中国・成都に見る、異常な不動産バブル発生のメカニズム

中国不動産バブルの崩壊は避けられるのか?

 中国でいま起きていることは、このようなメカニズムで説明可能だ。この負のスパイラルを逃れる道はないのだろうか?

 ソフトランディング派のひとたちは、中国政府の経済テクノクラートたちは日本の不動産バブルを研究しており、適切なマクロ経済政策で破綻を回避できるという。80年代のバブル崩壊の引き金を引いたのは旧大蔵省の総量規制と日銀の金利引き上げだが、中国の金融当局はこうした劇薬を避け、地方政府ごとに不動産価格の抑制目標を設定し、不動産投機には土地増価税(キャピタルゲイン税)を厳格に徴収し(5年以内に売却した一定以上のキャピタルゲインに対して20%課税)、個人が住宅を購入する場合の頭金比率を引き上げた。

 2010年4月17日に国務院が発表した「一部の都市における住宅価格の急騰を断固として抑えることに関する通知」(通称“国10条”)によれば、建築面積90平方メートル以上の住宅を購入する場合、1軒目の頭金比率が20%から30%に、2軒目の頭金比率が40%から50%に引き上げられ、貸し出し金利が基準金利の1.1倍を下回ることが禁止された。また一部の地域では、3軒目の住宅購入に対する住宅ローンの停止、非現地居住者に対する新規住宅ローンの一時停止、一定期間内に一家族が購入できる住宅数の制限などのより厳しい措置が定められた(日本総研調査部・関辰一「中国の不動産バブル崩壊リスクは極めて小さい」)。

 先に述べた内モンゴル自治区オルドスのバブル崩壊はこの通達によって人為的に起こされたもので、中国政府が不動産投機を管理できている証拠となる。

 もうひとつの楽観的な見解は、不動産価格の上昇を抑制できれば、いずれは中間層の所得が上昇して年収の5~6倍の範囲で住宅が購入になるだろう、というものだ。

 実際に、中国国務院は2012年6月11日に発表した「国家人権アクションプラン」で、「賃金の正常な増加に関するメカニズムを構築し、最低賃金基準を安定的に引き上げ、最低賃金基準を年平均13%以上引き上げる」と明記している。沿海部の人件費の高騰が報じられているが、これによれば内陸部も含め、中国の人件費は今後5年間でほぼ倍になることになる。

 しかしこれは、荒唐無稽な政策というわけではない。

 経済学者のあいだでは、中国企業の労働分配率の極端な低さが指摘されてきた。

 日本の場合、国民所得に占める雇用者報酬の比率(労働分配率)は74.1%、中小企業では81.0%となっている(2009年度)。もっともこれは世界金融危機後に大きく上昇したもので、2007年以前は60%台でアメリカやイギリスなどとほぼ同じだった。それに対して中国の労働分配率はわずか34%と、先進国の半分しかない。

 中国は「社会主義的市場経済」といわれるが、その実体は、株主が労働者を搾取して富を分け合う「強欲資本主義」そのものだ。その結果一部の特権層に富が集中し、それが過剰貯蓄となって株や不動産などの資産インフレを引き起こす。だとすれば、労働分配率を先進国並みに引き上げて、所得を消費に回す中間層を育成するという経済政策は理にかなっている。

 だが逆にいえば、外国企業がこぞって中国に進出したのは、売上げに対して株主の取り分が法外に大きいからだ。そのメリットが失われ、ふつうの商売しかできなくなれば、生産拠点としての中国の魅力は大きく失われるにちがいない。もちろん、中間層の台頭で巨大な消費市場が生まれるかもしれないが、それに対応するには新たなビジネスモデルが必要となるだろう。

 世紀城のコンドミニアムの平均価格は1平米あたり1万元で、100平米の標準的な物件なら内装費用込みの総価格は150万元(約2000万円)になる。夫婦共働きで、現在の所得が倍になるのなら、(ローン金利にもよるが)たしかに払えない金額ではない。

成都の高級住宅街にある不動産店の広告。内装済みのコンドミニアムの月額家賃が4000元(約5万2000円)~6000元(約7万8000円)。販売物件は100万元(約1300万円)~150万元(約2000万円)が中心 (Photo:©Alt Invest Com)

 休日には、多くの成都市民が物件を見に世紀城を訪れる。彼らはみな、将来の所得増を前提に、かなりの無理をしてもいまのうちにマイホームを所有しようと考えている。その意味では、成都の不動産開発にはたしかに実需がある。ただ、その開発規模があまりにも巨大なのだ。

 中国政府は、このままあと5年間、不動産価格を適正水準に維持したまま、経済を減速させずに労働者の所得を年率10%以上増やしていかなければならない。もちろん誰も、中国の経済テクノクラートがこの困難な課題を達成する可能性を否定はできない。私たちは、15億人の欲望が生み出す巨大な経済システムをうまく想像できないのかもしれない。

 しかしそれでも、中国の不動産市場がバブルを加速させていかなければ持続不可能な構造になっているのは間違いない。不動産価格の上昇が止まれば、デベロッパーは資金繰りに窮して破綻し、それが不良債権となって深刻な金融危機を引き起こすだろう。中国経済の成長が鈍化すれば、いずれはクラッシュが待っている。

 “人類史上最大”とも呼ばれる中国の不動産バブルが崩壊したとき、世界経済、とりわけ日本の経済がどれほどのインパクトを受けるのか、私たちはそろそろ真剣に考えるべきなのかもしれない。

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 <執筆・ 橘 玲(たちばな あきら)>

 作家。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。2002年、金融小説『マネーロンダリング』(幻冬舎文庫)でデビュー。「新世紀の資本論」と評された『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』(幻冬舎)が30万部の大ベストセラーに。著書に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 究極の資産運用編』『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術 至高の銀行・証券編』(以上ダイヤモンド社)などがある。ザイ・オンラインとの共同サイト『橘玲の海外投資の歩き方』にて、お金、投資についての考え方を連載中。


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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